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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.5  概ねの方向を決める手がかり(4)
              最良か最善か、それとも基本と応用か

正解は一つか多数か

 グローバリゼーションがビジネスの仕方に均質化をもたらすと言う意見と、あいかわらずアメリカ型、日本型といった地域別の特徴は残らざるを得ないといった意見がある。そして、成功するためには、前者は、世界が一つの市場であることを重視せよといい、後者は、地域別のマーケットの違いに留意して企業を経営すべし、と主張する。正しい答えは一つという立場である。

 一方、成功の仕方は、企業の特徴点別に多数あると思うというのが体験からくる実感である。正解多数説である。HRMは個別企業の問題を取り扱うものなので、マクロ的な観点である均質論やxx型資本主義論とは離れて、正解多数説に立って考えることにしても良さそうだが、そう簡単に割り切る訳にもいかない。

 なぜなら、正解は一つしかないと考えるか、それともたくさんあると考えるかは、昔からHRMが議論してきたテーマであるからだ。
すなわち、全ての組織に当てはまる最良のHRMがあると考えるのか、効果的なHRMは組織により異なるので最善のHRMがあるだけだとするのかである。
この二つの議論はいまだ結論が出ていない。
 

最良のHRM

 最良のHRMがあるとする考え方では、HRMの目的は、「人材という経営に必要な要素をコントロールするのではなく、コミットメントを引き出すことにより組織の効率を上げること」であると考える。そのためには戦略との適合だけでなく、企業を取り巻く労働市場や法律などの外部環境との適合、従業員特性や企業固有の価値観などの内部環境との適合、さらには、ステークホルダー間の利害の調整なども必要と考える。
 例えば、同じ従業員でも若年労働者と中高年労働者の利害は一致しない。若者には年金や退職金は遠い先の話である。それよりは、どのような能力向上の機会があるかに関心がある。
中高年は、長年組織のために貢献してきた人に報いるのが当然と考える。会社を大きくしたのは俺たちだという。株主、従業員、顧客にどのように利益を配分するかという問題もある。こういう意見の違いを調整し、人々から高い効率を引き出すのがHRMである。
 そのためには管理するのでなく、組織のヴィジョンやミッションを明らかにし、人々を動機付けることによってやる気を引き出し、結果に対してコミットメントしてもらうのがよく、これはどんな組織にもあてはまるとする。
 

最善のHRM

これに対して、最善のHRM派は、「人材という経営戦略を構成する要素のコストパフォーマンスをいかに大きくするか」がHRMの目的と考える。戦略との適合性が大切で、戦略が異なれば必要とする人材も異なると考える。そのため外部労働市場を活用することもいとわない。企業は株主のものという考え方が強い。最良派にくらべ目標の範囲をより限定することにより、やるべきことをはっきりさせようというのだ。

 企業の戦略もHRMも、外部環境へのフィットと、自分の手持ち経営資源の特徴とフィットの二つが要求される。この場合、経営戦略は外部環境を考慮の上策定されるので、策定された経営戦略によくフィットしたHRMであれば、当然外部環境に適合したものになっているはずである。
それゆえ、組織が持つ経営資源を考慮に入れて選択されるHRM上の諸施策が、お互いに他を補強しあって自分の特徴点を活かすようにできているかどうかに、主として関心を集中すればよいということになる。

 小売業の戦略と半導体産業の戦略は異なるように、事業によって効果的な戦略は異なるのであるから、戦略を支援するHRMも事業により異なるという理屈になる。全ての組織に当てはまる最良のHRMは存在せず、組織ごとに最善のHRMがあるだけという考え方になる。

基本と応用

 上記二つの意見は対立する概念ではなく、どの組織にでも当てはまるようなことを基本と考え、特定の組織にだけ当てはまることは、環境に対応したのだから応用と考えようという意見もある。従業員の間には公平に扱われていると言う感じがなくてはならず、これはHRMの基本である。

しかし新入社員とCEOの年収にどのくらいの差があっても公平感が損なわれないかは、文化によって異なるので、組織ごとに考えるべき応用問題ということになる。以上三つの考え方うち、どこに軸足を置くかによって人材マネジメントの姿は大きく変わってくるのだが、そのうちどれが組織内一人親方の生態系として適当かの検討は先送りして、歩き出すことにしよう。

 

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