当事者間の交渉で決まるケースは二通りで、個人が雇いたい人と直接交渉する場合、もう一つは、労働組合のような団体が、個人の替わりに強い相手と交渉する場合である。どちらも当事者が強力な場合は、問題を生みやすい。
前者の場合、交渉に当たり留意しなければならないのは世間相場である。いくら当事者間で決めたといっても、例えば、CEOのストック・オプションや退職金が、世の中の水準からみて妥当でなければ、株主などの利害関係者に受け入れられない。
後者の場合は、地方自冶体の労働組合のケースをあげることができる。労働組合は選挙に協力することを条件に、市の財政状態や世間相場に関係なく、市長から高い賃上げを獲得してしまうことが可能である。民間の場合でも、強力な産業組合が高い賃上げを獲得すると、それにひっぱられて他の産業の賃上額も高めになり、組合がない事業にまで影響、インフレが一層深刻になるということは歴史的にも経験済みである。当事者間の交渉で決まるというのは、原理的に見て一番良いようだが、物事はそう簡単ではない。当事者間だけで決めてしまうとことの問題点を熟知したヨーロッパでは、労使交渉に第三者の介入が必要だと考えている。日本の場合は、労使の社会的責任論でこの問題に対処しているが、良識によるコントロールであり、チェック機能はヨーロッパほど強くはない