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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.18  処遇(5)長期報償給( Long term incentive plan )

ストック・オプションの性質

 賞与は、6ヶ月とか一年といった短い期間の業績を反映するものだが、より長い期間、経営陣にがんばってもらうために工夫されたのがストック・オプションである。支給されたときの株価と権利を行使したときの株価の差額が報酬となる。この仕掛けは、ベンチャービジネスの場合、市場で株式を公開できたとき( IPO initial public offering )初めて意味あるものとなる。IPOにたどり着かなければ、株式はただの紙くずにすぎない。

資金繰りが厳しいベンチャーは、ストック・オプションを提供することにより給与を低く抑えることができるため、経営幹部だけでなく広い範囲の従業員を対象とする傾向がある。これは、「現在の給与を将来の株主に負担させている」のに等しい。
アメリカでパソコンの会社の社長をしていた時代に、受付の女性を引き抜かれたことがあったが、退職理由は、「ストック・オプションがあるベンチャーの受付に転職」とのことで、特に仕事の内容が変わったわけではないので、ストック・オプションの威力に少し驚いた記憶があるが、これはやりすぎで、IPO後よほどの急成長でもしないかぎり、ストック・オプションの乱発は将来の株主に公正ではないと思う。
 

ストック・オプションにかわるもの

 ストック・オプションをもらった経営者は、短期間で業績を上げ、株価を上昇させようとする。そのため、数々の粉飾決算がおこなわれた。エンロンの事件以降、ストック・オプションの弊害が次第に意識されるようになった。そこで注目されるようになったのが長期報償給、LTPロング・ターム・インセンティブ・プランである。

  そもそもLTPは、多国籍企業などの子会社など、株式上場を予定していない会社が、ストック・オプションが導入しにくいので、それに代わるものとして工夫されたものである。そのため、株価に代わる指標、利益や売上高など予算として策定された数値目標を算定根拠とする。対象期間は長めで、3年以上が普通である。3年以上会社に留まってがんばって欲しいということで、権利行使は3年後とか5年後というように設定する。

「年棒(含む賞与)はやかましいことはいわない。マーケット・プライスでOK,成果は仕事とインセンティブで報いて欲しい」という姿勢が強い自律的プロ人材(組織内一人親方)に適した制度と言うことが出来る。

 

長期報償給LTPの具体例

 LTPの良いところは、粉飾に耐性がある点である。粉飾により株価をあげる不正と同じように、賞与なども利益や売上高にリンクさせると、粉飾がおきやすい。期末に製品を取引先に出荷し、次の期に返品をドカンと出すなどの手口を複雑にしたものが、その一例。LTPは、対象期間を長くとることによって、そういう操作を意味の薄いものにしてしまう。LTPのイメージがつかめるよう、私が工夫したLTPの例を紹介しよう。

目標:
3年後の売上高と利益

期ごとの予算数値A:
目標を勘案の上毎期策定される。
部門により売上高であったり利益であったり、新規顧客開拓数であったりする。

各人別配分額B:
各人のランクにより決められるが、年収の50%〜100%

算式:
Aを達成すると B×1/6の権利が発生、受け取れるのは3年後
達成できない場合はゼロ、中途で退職した場合は発生した権利分
  二期連続達成すると B × 2/6  の権利が発生
  三期連続達成すると B × 3/6 × 105%
  四期連続      B × 4/6 × 110%
  五期連続      B × 5/6 × 115%
  六期連続      B × 6/6 × 120%
従って、例えば四期目が予算未達成でその他の期は達成であれば
  支給額は  B × 3/6 × 105% + B × 2/6 となる。

 LTPは、算式を各社の事情に合わせて作ればよい。上記の算式の場合は、予算を達成することに価値をおいたものになっているが、これは再建途上の会社のためで、目標の3年後の売り上げと利益はローリングプラン。

予算を達成したらそれ以上がんばらないという心配はあるが、その場合は賞与が増えない仕掛けにする。予算達成リンクとすると、安全な低めの予算をもとめるインセンティブが働くので注意が必要。連続達成が評価されるのは、長期的な手を打つことを奨励するため。 
次回はベネフィットについて考えよう。
 

【ご参考】
ロングターム・インセンティブ・プラン(LtipあるいはLTP)について興味のある方は、ぜひ次のコラムも併せてご参照ください。
なお、3Dラーニング・アソシエイツではジョブ・グレード制の導入やLtip導入のお手伝いもいたします。関心のある方は連絡先へご相談ください。

<関島の書き下ろしコラム>
■コーヒーブレーク
・(25) LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後

(37) LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後II クローバック条項
(43) LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後III Ltip 対 強欲資本主義

<弊社パートナーのコズロフスキーが執筆「Reports from New York」>
vol.11 Long-Term Incentives or LTI’s
vol.24 LTIPs and “Clawbacks”


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「21世紀型人材マネジメント―組織内一人親方に好ましい生態系の創り方―」をテーマに、これからも関島康雄のコラムを掲載していきますのでご期待ください。また、このコラムに関するご意見・ご感想もお待ちしております。
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