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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.24  人材開発(3)ステークホルダーとHRMが創造できる価値 I

株主には投資価値の向上

 まず株主にたいしては、投資価値を上げることが目標となるが、そのためにHRMが出来ることは、企業の業績向上に貢献することで、例えば、コスト低減である。この場合のコスト低減は、単に人件費の切り下げというような短期のものではなく、より無形資産を活用したコストの切り下げである。例えば、新入社員に対する導入教育を整備したりメンター制度をとりいれたりして離職率を下げ、その結果として、「人の育成に力をいれている」という評価を獲得することにより優秀な人材が集めやすくなり、採用コストが低減する、などがそれである。

無形資産に着目する理由は、株主にもいろいろなタイプが存在するからである。株式の売却益が目標で短期間しか株式を保有しない株主もいるし、利益配分において、株主の取り分を大きくしたいと考える人もいよう。だが、HRMという仕事の成果は、比較的長期間の努力の結果生まれるものであるという特徴点から考えて、短期間の株主に貢献することは難しい。貢献できなくてもやむをえないと考えるべきである。
例えば、不況で作業量が減ったとしても、直ちに人員削減に踏み切ったほうが良いかどうかは、短期、長期の視点から種々な条件を検討のうえなされるべきで、「作業量の減少イコール人員削減」ではない。株主価値の向上にHRMが貢献できるのは、「無形資産を増やすことによって」である。
 

顧客には共通な文化

 ビジネスモデルを構成する要素のうち、最も大切なものの一つが顧客である。どういう顧客を選ぶかにより、提供する価値も異なるし、とるべき競争戦略も異なってくる。

 例えば、SAS(スカンジナビア航空)が選んだお客は、ヨーロッパのビジネスパーソンである。提供する価値は、「ビジネスパーソンが喜ぶサービスの提供」である。このため、フライトスケジュールはパリやロンドン、フランクフルトやローマといった大都市に朝8時前後に到着するものを多くしてある。朝の会議に間に合うように、である。会議終了後に乗ることができるフライトも、昼前、昼過ぎ、三時ごろ、夕食前、夕食後といったように用意されている。

このようなビジネスモデルの場合、HRMが出来ることは、従業員の採用に当たって、「顧客が気持ちよく接触できる雰囲気をもった人を選ぶ」といったことであろう。フライトアテンダントは、てきぱきとスケジュールの変更に応じたり、レンタカーの手配をしたり、乗り継ぎ情報が提供できたりしなければならない。それゆえ、接客が得意な人というよりは、どちらかというと有能な秘書に近い人が望ましいということになる。教育訓練の内容も、通常のフライトアテンダントの業務に加え、「現代のビジネスパーソンが求められていることは何か」といった、顧客のビジネスの内容理解が必須項目とする必要がある。

従って、採用や教育訓練の目標は、単に「組織が必要とする能力の確保」にとどまらず、「顧客と共通な文化の確保」を、その視野に入れなければならない。技術を大切にする会社が顧客であれば、そこにセールスに行く営業マンは、技術のことが良く分からなければ受け入れられない。多目的スポーツビークルを販売する会社には、アウトドアスポーツが好きな人がたくさんいなければ、「渓流釣りにはどんな車がよいか」といったたぐいの質問に答えることはできない。HRMが自社のビジネスモデルについて十分理解していることが求められる理由の一つが、「顧客に対する貢献」にある。

 

経営者には専門家としてのアドバイスと実行支援

 HRMのステークホルダーである経営者に対しては、貢献の仕方は二通りとなる。一つは経営者がビジネスモデルを選択するさいに、必要な情報やアドバイスを提供することである。工場を立地しようと考える国の労働法制や労働慣行を調査の上、しかるべきアドバイスをHRMの専門家としてしなければならない。ビジネスモデルが選択された後は、その実行を支援すること、例えば、製造コストで競争相手を圧倒する戦略であれば、優秀な現地人製造担当マネジャーの採用や、本国から送り込む人材に生産技術の専門家を加えるなどの工夫が求められる。

ビジネスモデルの選択に際しての提言と、ビジネスモデルを実行するための支援の間の整合性を確保することは、実際上はそれほど簡単ではない。ビジネスモデルの選択は、いろいろな視点で行われるため、HRMの観点から見て問題の多い選択もしばしばおこなわれるからである。優れた技術力があるという理由で会社を買収しても、優秀な人材は既に散逸した後ということも起こりうる。優秀な人材に逃げられることばかり心配すると、事業の再建に必要なリストラが遅れてしまう危険も増加する。二つの貢献の間の整合性の確保もHRMの重要な課題といえる。

 

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