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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.26  人材開発(5)キャリア追求の機会の提供

自分がしたいことは、直ぐには分からない

 HRMが従業員に対して提供できる価値の一つが、キャリア追求のチャンスであることは疑いない。問題は、キャリアについての意見はゆっくりと決まってくるという特徴を持つことである。キャリアとは、どういう人生を送りたいかという問いに対する自分なりの答えのことである。この場合、職業なしの人生は、よほどのお金持ちの場合を除いて考えにくいので、「どういう人生を送りたいか」という質問は、「どういう職業人生活を送りたいか」という質問と強く関係する。

しかし、若いうちからこの質問に対する答えが、ハッキリ分かっている人は、まれである。多くの場合、仕事の経験を通して、徐々に自分のしたいこと、好きなことが分かってくるのが普通である。そのため、仕事を提供するものと仕事をする人の両方の意見が一致して、はじめて契約が成立するというルールではあっても、「仕事の経験の短い人の意見は、実は、ハッキリしていないケースが多い」ということを前提にHRMの仕掛けを組み立てる必要がある。
 

人材開発は、キャリアについて考えさせることから始まる

 仕事を提供する側にとっては、キャリアについての意見がハッキリしているほうが望ましい。なぜなら、本人の目標が、例えば、グローバルに活躍するHRMの専門家というように具体的であれば、「それならこういう仕事をしてみては」とか「こういう先輩の話をきいてみては」と、本人の希望に沿うよう仕事や勉強の機会を準備することができる。しかし、何をしたいか、何になりたいかがよく分かっていない場合は、応援が難しい。

よって、採用した人にたいするHRの最初の仕事は、キャリアについての意見がどの程度ハッキリしているかを見極めることになる。この仕事ができますか?と経験者を仕事別に採用した場合でも、選んだ仕事が、本人の考えるキャリアの上でどのような位置を占めるかを確認する必要がある。

新卒採用の場合のように、就職より就社に近い場合は「キャリアとは何かを考えさせること」が人材開発の第一歩になる。
キャリアを考えるためには、「自分が好きなことは何か、自分が得意なことは何か」を知らなければならないが、そのためには、仕事をしている自分や、仕事をしていないときの自分をよく観察しなければならないことを認識させなければならない。
「自分のしたいことはそのうち分かるはず」なので、「あわてることはない」のだが、だからといって、本当に自分らしいことや、本当に好きなことは、「漫然とすごしていては、いつまでたっても見つけられない」からである。
 

適職を探すのではなく、自分で作る

 何をしたいのかを考える際、最も障害となるのは適職信仰である。適職信仰とは、この世の中にはどこかに自分に適した仕事が存在しそれを見つけさえすれば上手くいく、といった考え方である。適職は、適性検査などの方法で見つけ出せるものだという受け止めである。この考え方では、適職を見つけることは難しい。そもそも、人間の適応能力はおおきなものがあるので、向いていない仕事よりは向いている仕事の数の方が圧倒的におおい。適職を既にあるものから探そうとすると、この仕事はどうだろう、あの仕事はどうかと目が外に向いてしまい、自分についての観察がおろそかになってしまいがちである。

だが、実際の世界で成功している人は、自分らしいやりかたで仕事をする方法を見つけた人である。成功した人事課長という視点で先輩をみても、義理人情型、論理型などいろいろなタイプの人が成功している。賃金に強い人、採用に強い人、組織論に優れた人、専門性もいろいろである。営業でも、外交的な人ひとだけが成功するわけではない。どういう職業でも成功する方法が一つしかないということはありえない。無数の方法がある。要は、自分らしい方法を見つけることが成功のカギである。自分らしさを知ることが大切なのだ。

 

マネージするものによりキャリアについての考え方は変わる

 やりたいことはそのうち分かる、といって歩き出したとしても、仕事をしているうちに自分の考え方も変化するが、組織の要求も異なってくる。始めのうちは自分自身がマネージできればよい。組織の目的、自分の仕事の分担、前工程と後工程などが理解できればそれで十分である。一塊の仕事を任され、後輩の指導ができるようになれば一人前だ。

しかし、主任、課長といった地位になると、自分だけでなく、人を使って結果を出すことが求められるため、自分をマネージするだけでなく、他人をマネージするという仕事が生まれる。このことによって、キャリアについての考え方は大きな変更をせまられる。自分の能力を中心に勝負をするのか、それとも、他人に能力を発揮させることにより勝負するかの選択がそれである。次回はマネージするものの変化がキャリアにあたえる影響について考えてみよう。

 

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