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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.30  人材開発(9) リーディング アップ

上司にたいしてリーダーシップを発揮するのが仕事

 組織内一人親方のレベル3クラスともなると、上司に対しリーダーシップを発揮しなければならないケースが増えてくる。ビジネスをマネージしようとすると、資金や人材といった経営資源を獲得する仕事が発生するからだ。経営資源は無限にあるわけではないので、当然、社内の他部門と競争になる。

例えば、人を増してもらうためには、まず上司を説得する必要がある。人が必要な理由をより戦略的な見地から説明したり、上司が普段から持っている問題意識に即して説明したりして、増員に賛成してもらわなければならない。そのうえで、経理や人事といった関係部門を説得することになる。 何か新しい事を実行する場合でも、将来問題がおこらないように、自分の部隊がおこなう行為について事前に上司の了解をえておく必要がある。「専務の了解をもらっておいてください」といったように、部下もまた、そのことを期待している。

上司に対してリーダーシップを発揮することを英語でリーディング アップ (Leading Up)というが、日本語の上司に対する事前の了解や根回しより、もう少し能動的な感じがある。私の場合、日立製作所では、「権限は与えられるものでなく、奪うもの」と教えられた。「実績を示せば、上司は次第に権限を認めてくれる。まずはやってみせよ」という意味なのだが、これだとリーディング アップの方が穏やかな感じがしてしまうが、言おうとするところは同様だと思う。
写真:John P.Kotter著 「Leading Chenge」
 

ワンランク上のコミュニケーション能力が必要

 部下に対してリーダーシップを発揮する場合と、上司に対してリーダーシップを発揮する場合とで、やり方が大きく異なるわけではない。どちらの場合も、「何をしたいか」、「何故そうしたいか」、「どういう順序で実行するか」などについて十分説明する必要がある。問題を少し複雑にするのは、上司よりも自分の方が専門知識も高く経験も豊かなので、自分に判断を任せてほしい、という場面が時々あることだ。普段から実績を示し、この分野は任せて大丈夫だという上司の信頼を獲得しておく必要がある。

一方で、上司の判断基準は、「ビジネスに貢献するという視点から見てどうか」ということなので、専門分野から考えてこの方向が正しい、というだけでは賛同は得られない。判断の時間軸も、より長いかもしれない。それゆえ、判断のプロセスを、ビジネス全体の視点から説明する必要が出てくる。部下をリードする場合に比べ、ワンランク上のコミュニケーション能力が求められる理由である。
 

Well informed 対 ヒラメ

 上司とよくコミュニケーションが取れているという状況は、上司が何をしたいかを理解したうえで、自分が「何をしたか」、「何をしているか」、「何をするつもりか」を、十分に伝達できている状況のことである。何かを実行する前に、上司の意見を聞いておくことや、助言をもらっておくことは大切な注意事項である。上司がWell informedな状態にあるということは部下からの情報がよく伝わっているという、一方通行な状況を意味しているのではない。上司の方も自分の意向は十分部下に伝えたという印象が残っていなければならない。
いくつかある解決案の概要をざっと説明して、それぞれの案についての印象をきいておくといった手法が有効なのは、「意向は伝えた」という印象が上司に残るからである。

しかしこのことは、なんでも上司の意向に沿って物事をおこなえばよいということではない。ビジネスに貢献するという意味で、自分の方が正しいと思えば、プロとしての意見を十分に言うべきであるし、上司の意見も引き出すべきである。意見の交換を通して新しい方向が生まれたり、お互いの理解が深まったりするので、この過程を避けていては、進歩がうまれない。上司の顔色だけをうかがっている、俗にヒラメといわれる人種が有害な理由はここにある。

 

勇気よりも専門性

 上司に反対意見をはっきり述べるには、少し勇気がいる。しかし、必要なのは勇気よりは、自分の専門分野についての自信である。深い知識や経験から出た考えを、専門家でない人にも分かるように上手に説明されれば上司も尊重せざるを得ない。それ故、ビジネスをマネージする段階では、職能分野での専門性が高いことが一つの前提となる。
多くの場合、ローテーションはあったとしても、この段階に到達するまでに人は専門性を高めているはずである。しかし、そのことと「専門性に自信が持てる」こととは別物である。次回はこの点について考えてみよう。

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「21世紀型人材マネジメント―組織内一人親方に好ましい生態系の創り方―」をテーマに、これからも関島康雄のコラムを掲載していきますのでご期待ください。また、このコラムに関するご意見・ご感想もお待ちしております。
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