コラムVOL.28で説明した「キャリア開発上の三つの分岐点」という考え方と人材開発の手法の一つである「選抜研修という仕掛け」は、どのように結びついているのであろうか。拙著「Aクラス人材の育成戦略」が世に出た2004年ごろに比べれば、選抜教育は世の中にかなり受け入れられる考え方になった。しかしその意義が、関係者に明確に理解されているかというと、答えはイエスではない。そこで、ここで改めて、キャリア開発という視点から選抜教育について考え方を整理してみたい。 一般的に言えば、組織に必要なリーダーを連続的に育て、リーダーの供給を切らさないようにしようというリーダーシップ・パイプラインの考え方は、選抜研修制度の基本ということが出来る。しかし、労働市場やHRMの仕組みにより、その機能の仕方は異なってくる。
アメリカの場合であれば、分岐点ごとに「UP OR OUT」の法則が働く。レベル2の方向に進み課長などのポストに就くためには、他人をマネージする能力があらかじめ求められる。その能力が獲得できなければ、昇進(UP)することができず、組織を離れざるを得ない(OUT)。他人をマネージすることよりは、自分のマネージに全力を挙げ、専門性を高めることにより組織に貢献することを目指したいと考えても、人の3倍売るスーパーセールスマンとか、将来ノーベル賞でも取りそうな業績を上げている研究者でなければ、レベル1の方向にさらに先に進むことはできない。
日本の場合は、新卒採用という形で毎年パイプラインに圧力がかかり、人は上に上にと押し上げられる。人をマネージするのは得意ではない人も、専門職コースヘのパイプは、あまり太くないので、多くの人がレベル2の方向に曲がることを要求される。暗黙の前提として、勤続年数とともに成長することが求められているが、他人をマネージする能力を十分獲得する前に、年功圧力により課長のポストに押し上げられる。