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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.35  人材開発(14)キャリア開発上の分岐点と選抜研修制度

「UP OR OUT」対「ポストが人を育てる」

 コラムVOL.28で説明した「キャリア開発上の三つの分岐点」という考え方と人材開発の手法の一つである「選抜研修という仕掛け」は、どのように結びついているのであろうか。拙著「Aクラス人材の育成戦略」が世に出た2004年ごろに比べれば、選抜教育は世の中にかなり受け入れられる考え方になった。しかしその意義が、関係者に明確に理解されているかというと、答えはイエスではない。そこで、ここで改めて、キャリア開発という視点から選抜教育について考え方を整理してみたい。 一般的に言えば、組織に必要なリーダーを連続的に育て、リーダーの供給を切らさないようにしようというリーダーシップ・パイプラインの考え方は、選抜研修制度の基本ということが出来る。しかし、労働市場やHRMの仕組みにより、その機能の仕方は異なってくる。

 アメリカの場合であれば、分岐点ごとに「UP OR OUT」の法則が働く。レベル2の方向に進み課長などのポストに就くためには、他人をマネージする能力があらかじめ求められる。その能力が獲得できなければ、昇進(UP)することができず、組織を離れざるを得ない(OUT)。他人をマネージすることよりは、自分のマネージに全力を挙げ、専門性を高めることにより組織に貢献することを目指したいと考えても、人の3倍売るスーパーセールスマンとか、将来ノーベル賞でも取りそうな業績を上げている研究者でなければ、レベル1の方向にさらに先に進むことはできない。

日本の場合は、新卒採用という形で毎年パイプラインに圧力がかかり、人は上に上にと押し上げられる。人をマネージするのは得意ではない人も、専門職コースヘのパイプは、あまり太くないので、多くの人がレベル2の方向に曲がることを要求される。暗黙の前提として、勤続年数とともに成長することが求められているが、他人をマネージする能力を十分獲得する前に、年功圧力により課長のポストに押し上げられる。

それゆえ、ポストについてから他人をマネージすることを本格的に学ぶことになる。この仕掛けの便利なところは、組織が機能しなくなっては困るので、周りが、オフ・ザ・ジョブを含めいろいろなかたちで教育することで、本人も「らしくなろう」と努力する。その結果、ポストが人を育てるという効果が生まれる。

 

選抜制度の必要性

 どちらの場合も、人材を育てるというパイプラインの機能を落とさないよう、いろいろ工夫している。それが選抜制度である。アメリカの場合は、「UP OR OUT」ルールが効きすぎて、あるいは人材を他社に引き抜かれたりして、パイプラインの流れが途絶える心配がある。そのため、歩留まりを考えつつ、選抜制度を使って、早め早めに一皮むける経験を与えることにより、人や、ビジネスをマネージする方法を習得させようとする傾向がある。選抜研修制度は、優秀な人材を引き留める施策でもある。

日本の場合、一番心配すべきなのは、年功圧力による目詰まりである。高度成長期は、組織が成長しポストの数が増えただけでなく、次から次と実力以上の仕事が舞い込んだため、失敗もいろいろしながら多くの人が、その能力を伸ばすことができた。そのため、目詰まりは、あまり問題とならなかった。しかし、組織が拡大せず、ポストが不足する時代になると、ポストが人を育てるといった方策だけでは目詰まりが起こってしまう。特定の人を選抜して教育し、混雑している分岐点を速く抜けさせる必要が生まれたのだ。

 

一皮むける経験が大切

 人が成長するためには、成功体験や失敗の経験が大切である。しかし、経済成長が穏やかな現代では、一皮むけるような経験をする機会は、たくさんは起こらない。それ故、限られたチャンスは有効に活用しなければならない。

そのためには普段から、「一皮むける経験をさせる人の優先順位」を決めておく必要がある。それが選抜制度であり、その人たちに、困難に立ち向かう為の準備をさせるのが選抜研修である。当然、「一皮むける経験」には難しさの程度があり、若手向け、中堅向け、CEO候補向けといった分類がなされなければならない。その上で、誰にそのチャンスを与えるかを考えることになる。

次回は選抜制度を実行する上での工夫について考えてみよう。

 

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