日本経済全体の海外事業の発展段階は、現地生産が進み日本への持ち帰りや進出先の周辺国への輸出が本格化するフェーズ3にあると判断するが、日本経済に大きな影響を与える自動車産業の場合は、どのあたりに位置するのであろうか。
フェーズ3の特徴点は地域本社の活動が本格化することだが、アメリカトヨタとか米国日産という名前もニュースには良く登場するので地域本社機能はある程度存在すると考えられる。地域本社の活動が本格化するには、日本の本社の機能と地域本社の機能の切り分けが進み、地域の事業活動に重大な影響のある事象については、地域側に権限の委譲がおこなわれる必要がある。しかし、リコールに関する権限が現地側になかったという報道が正しいとすると、権限の委譲についての議論は煮詰まっていなかった(現地側もそれは本社任せでも問題はないと考えていた?)と思われるので、この点からもフェーズ3には至っていないと考えることができる。
現場でどのような問題が起こっているか、もフェーズ判断の手がかりになる。フェーズ2(後期)におこる問題は、中小企業が中堅企業に脱皮する際ぶつかるような問題である。具体的には、育てた人材の退職や労働組合問題など処遇にかかわる問題と、事業活動が大きくなったことにより、関係する法律がふえたことによりおこる問題である。海外事業の場合は、優れた現地人材を確保するための施策や日本人と現地人の処遇格差の問題など雇用に関する問題と、安全衛生や独占禁止法、関税などの事業運営上関係する法規にかかわる問題がこれに相当する。会社が大きくなったため、海外勤務経験者の数が多くない管理部門の人や、海外経験がない役員クラスも海外勤務を要請される。
以上を総合すると、日本全体の海外事業の発展段階は、持ち帰りが普通のこと(年間10兆3000億)になり、国内に大きな影響を与えているので、フェーズ3に位置すると考えられるのに対し、自動車産業はフェーズ2(後期)に位置すると判断できる。日本全体よりは、少し遅れているということになる。 細かい情報を持たない門外漢の、新聞情報だけによる判断なので、この判断が正しいかどうかはわからない。しかし、発展段階が、ある程度位置づけられれば、今後、起こりそうな問題が予測できるので、今後の人材開発を考える上では有用である。次回は、日本全体を対象に、どのような人材開発上の問題があるかについて考えてみよう。