ホーム  
3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.58  組織(4)組織設計上の留意点II 分ければ離れる

仕事の相互依存の度合いを知らなければならない

  組織を分けると、組織の間に壁ができることは避けがたい。それゆえ、組織を分ける前に仕事をグループ分けし、グループ間でどのような情報のやり取りをしているかを分析する必要がある。ある製品の設計を担当する部門があるとしよう。

仕事の中身は、製品のコンセプトを決める基本設計、基本設計のコンセプトを製品として実現させるための構造設計、構造設計で要求された部品を作るための部品設計という三つのグループに分けられるとする。この三つのグループ間でどのように情報が流れているかを知ることが、組織をどのように区分するかの鍵となる。

  基本設計が製品のコンセプトを決める際、コンセプトの実現可能性について構造設計側の意見を求め、構造設計側が技術面、コスト面からみたコメントを出す、それに応じて基本設計が修正案を出すといったやりとりが頻繁に行われる場合、この二つのグループの相互依存性は高いので、同一組織に所属する方が仕事は円滑に進む。構造設計と部品設計の間でも同様の関係が成り立てば、構造設計と部品設計は同一組織内におくべきである。

  これに対して、基本設計の仕事は、次世代の製品、次次世代の製品はどのようなコンセプトで作るべきか、そのためにはどのような技術開発や人材が必要かを考えることであり、現在の製品の設計は構造設計と部品設計の仕事であるとしよう。この場合、基本設計部門と頻繁に情報のやり取りをするのは、中央研究所、マーケティング部門、部品会社や製造設備会社の開発部門といったところになる。そうであれば基本設計と現流製品を担当する構造設計以下の設計部門とは別な組織である方が効率がよい。

 

「通常の意思決定プロセス」についての検討も必要

  組織の境目をどこにするかを考える際、仕事の相互依存性のほかにも考えなければいけないことがある。それは、ルーティン(routine)通常の意思決定プロセス(会社の進む方向を左右するような大きな意思決定ではなく、日常的に繰り返しおこなわれる意思決定のこと) がどのようになっているかである。
ルーティンとは具体的には、それぞれの担当部署が、自分の仕事をうまく機能させるためには、前工程からどのような情報を入手し、後工程にどのような情報を伝達すればよいかについて試行錯誤した結果、次第に固まってきた仕事のやり方である。

意思決定の方式も、メンバーによる多数決、上位の職位にある人(例えば、課長)が決める、専門性により(この件はこの部署で)決めるなど、徐々に決まってくる。繰り返しおこなわれたことにより、意思決定の標準化が進み、担当部署間のインターフェースが明確になってくれば、組織をどこで区分したらよいかはおのずと明らかになってくると考えられる。

  しかし、外部環境が変化すれば、仕事の仕方は変化する。それに応じて、相互依存性もルーティンも変化せざるをえないので、組織を考える人は、常にこの二つに注意をはらわなければならない。
 

便利さをどのように判断するか

  仕事の相互依存性やルーティンを検討した理由は、組織を分けることにより情報の流れが分断されると、効率の良い意思決定はできないからである。

  先の事例(コラムvol.56)に倣って、それぞれの部門が、自分で「仕事に必要なもの」を購入するのでは面倒なので、資材部という組織を作って、良いものを、安く、適切な時期に買ってもらおうと決めたとしよう。問題はどの範囲のものを入手してもらうかである。「仕事に必要なもの」には、部品や設備の他に、人手もあるし建物や机やイスといったものもある。対象が多岐にわたるだけでなく、上手に買うための知識やノウハウも異なるので、全てを資材部門に任せるのは無理がある。何らかの整理が必要である。

  そこで、資材部門は製造に直接関係するものを扱うということにし、人に関することは総務部門と決めたとしよう。机やイスは従業員の数によって決まってくるので、人的資源管理の一環として総務部門が手配してほしいという判断である。工場の場合はこの考え方は自然である。

  しかし、ホワイトカラー中心のIT企業であれば、別な判断が求められる。どのくらいのオフィススペースが必要かは、在宅勤務やサテライトオフィス勤務などの導入により変わってくるし、知的生産性を上げるために必要な環境をどのように用意するかという視点も重要である。

この場合、机やイスは、企業文化や仕事の効率に影響を与える大切な要素となる。それゆえどんな机やイスを用意するかは、ファシリティ・マネジメントという別な専門業務の一部と考えるべきという判断もありうるのだ。

意思決定は、情報が集まる場所でおこなわれるべきである。しかし、「皆が、どのような仕事のやり方をやすいと考えるか」によって、意思決定の部門は変わってくる。ビジネスモデルの影響は、やはり大きいのである。
 
 

前のコラムへ バックナンバー一覧 次のコラムへ

「21世紀型人材マネジメント―組織内一人親方に好ましい生態系の創り方―」をテーマに、これからも関島康雄のコラムを掲載していきますのでご期待ください。また、このコラムに関するご意見・ご感想もお待ちしております。
※ご意見・ご感想はメールにてお寄せください。メールアドレスは連絡先のページを参照願います。

Copyright since 2006  3DLearningAssociates All Rights Reserved.