一方、区分することにより専門性は高まる。考える仕事を(1)what何をするか、(2)howどのように実行するか、の二つに区分すると、部長は主として課題を解決するためにwhat を考え、課長は部長の指示をどうしたら実行できるかhow を主として考えることになる。そしてhow を実現するためには部下に何を指示したらよいかwhat を考える。このようにwhat とhow は繰り返されるのだが、階層が下がるにしたがって幅は狭くなるが専門性は高くなる。
賃上げ交渉の例をとれば、部長が、今回の春闘では経済情勢、会社の支払能力からいってこのあたりの水準にしたい、そのためには、どういう手順で相場観を創っていくか手がかりを得たいと考えた。そこで、「ベースアップなし定昇のみ」など、いくつかケース別の数字をつくるように労務課長に命じたとしよう。課長はそのためには、賃上げに関する総費用を把握しなければならないと考え、
(1)人員を、採用は昨年並み、減員は自然減だけとした場合
(2)昨年の半分採用、自然減
(3)採用ゼロ、希望退職100人実施
という3ケースを作成すべきと考え部下に指示。部下はそれぞれのケースが退職金、年金にはどのように影響するか、採用数変更の影響はどのようなものがあるかを知るために動き出したとする。
この場合部長は、課長ほど賃金改定にともなう総費用の計算プロセスに詳しくなくともかまわない。課長は昇給の結果が退職金や年金に跳ね返る度合を計算するプロセスや採用人員決定プロセスに詳しくなくても仕事はできる。だがそれぞれの担当者は、年金や部門別の人員充足状況に詳しくなければ課長の要求に答えることはできない。
一方で部長は、課長より自社及び同業他社の経営状況について詳しい情報を有しており、業界の相場決定の上で自社の影響力はどの程度かも把握している。要は、階層により専門性の中身は異なるが、区分することにより専門性は高まるという原則は横の繋がりの場合と同様である。