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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.62  組織(8)組織と戦略 I ビジネスモデルは組織に従う

組織は慣性を持っている

  組織に関する議論は、「組織はビジネスモデルに従う」というタイトルから始めた(コラムvol.55)。これは、アルフレッド・チャンドラーの「組織は戦略に従う structure follows strategy」 からきている。HRMの歴史を振り返ると時代ごとに、「企業の業績を左右するものに貢献すること」が求められてきたことが分かる。それゆえ、ビジネスモデルによる競争が主流である現代では、ビジネスモデルを支援するHRMであることが求められると考え、「戦略」を「ビジネスモデル」に置き換えたものである。

  組織は戦略に従うという考え方が成立するのは、企業を取り巻く環境すなわち経済や法規、社会や技術といったものが所与の条件であり、その条件の下で目標を達成するための戦略をたて、戦略の実現手段として組織を作るという順序で物事が進行する場合である。しかし、現代では外部環境である社会や技術の変化する速度は速い。戦略も外部環境の変化や競争相手の動きに対応してすばやく変えていかなければならない。
  一方、組織は、いったん出来てしまうとなかなか変化しないという性質を持っている。このため所与なのは組織の方で、戦略は現在ある組織を前提に組み立てられるということがおこってくる。戦略は組織に従うというケースがおこるのだ。同様に、ビジネスモデルが、人や技術の塊である現在の組織を前提に選択されるということがおこる。「ビジネスモデルは組織に従う」という現象が生まれるのだが、これは組織の成り立ちと深い関係がある。
 

組織はA・R・Cで出来ている

 組織というとどうしても組織図で示されるものが頭に浮かぶので、構造(architecture)に関心が集中しがちである。architectureに「構造」という言葉をあてたが正確には、「実現したいことのために選んだ構造」で、作った人の意思、設計趣旨が含まれている。例えば、営業中心の会社の組織と研究開発が中心の会社のそれは異なっているのが普通で、分業の形態をあらわす組織図には、会社がしたいことが如実に反映される。

しかし、それだけではなく、どのような分業形態にするかは、仕事を通じて次第に固まってきた通常の意思決定の在り方(routine)も反映する。そうしないと分業の効果が上手く生じないのだ(コラムvol.58参照)。

 だが、「どのようなことを便利とか効率が良いと考えるか」によって意思決定の在り方は変わってくるし、組織が持つ文化(culture)によっても便利さや効率の意味は違ってくる。製品を大量に作るときに便利なことと革新的な製品を創りだすときに便利なことは異なるのが当然である。

従って組織とは、構造 A(architecture)と通常の意思決定 R(routine)と文化 C(culture)で出来ているということができる。そして、組織がAだけでなくRとCとでも構成されていることが「変化しにくい」という性質を生む理由なのである。

 

成功体験が変化を妨げる

  コラムvol.56で、「横に切っても縦に切っても羊羹は羊羹」と書いたが、これは組織構造を変えても仕事の仕方Rや文化Cを変えない限り、大きな変化は起こらないことを表現したものだ。組織が慣性を持つのは、ルーティンや文化が成功体験によって形作られるためである。

例えば、長い間の経験を通して、「こういう種類の問題は、このように処理するのが良い」というので固まった意思決定の方式が、ルーティンとなるので、状況が変わってもとりあえず今までのやり方でやってみようと考える。従って、従来の方法では対処できず、大きな問題が起こったという事象が発生するまで変化はおこらない。 

  組織が持つ文化とは、組織に所属する人が共有する予想や価値観(こういうことが起これば、こうなるといった考え方やそれに基づいて生まれる行動規範、例えば整理・整頓が出来れば品質は向上する、よって大切)、価値観をしめす逸話や社内特有の表現(例、自由闊達な議論をするという意味でのワイガヤ、有言実行など)、人々の間の非公式なネットワークなどをさすが、いずれも簡単には変化しないのは明らかである。

 

カードの全とっかえ(全部取り替えること)はできない

  では、環境条件が変化し従来のビジネスモデルが十分に機能しなくなった場合、企業はどうするか。答えは、今ある組織、すなわち自分が持っている人材や技術や文化を前提に、お客さんや、お客さんに提供する価値、および競争の勝ち方(戦略)を再検討せざるをえない。次回はこの問題について考えてみよう。

 

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