研究開発の結果を出来るだけ早く実際の事業に結び付けたいという場合、例えば製造部門に所属する試作担当部門を分割し、その一部を研究開発部門に置き、製造部門に残った部隊は量産試作に専念するという組織変更がそれである。研究開発などで他社に遅れをとった場合、特別研究チームをつくって追いかけるというのもよくみかけるケースである。
この考えを事業全体に置き換えたものが、緊急展開部隊の創設である。緊急部隊については組織と戦略という視点からコラムvol.67(緊急展開部隊)、vol.68(緊急展開部隊が成立する条件)で考えたが、お客さんのニーズの変化にすばやく応えるという意味でも有力な手段である。
ある局面で、新しい事業の方向はこっちではないかという感触を得たとしよう。その場合、試作品をつくりテスト販売をし、市場の反応をみてから本格的に事業に取り組むという形式は標準的な方法であろう。しかしこれでは、これまであまりよく知っていなかった新しい市場に参入しようとする場合、時間がかかりすぎ、せっかく得た「今後の方向はこっちではないか」という発見を活かしきれない。そこで、ある程度の規模で、ビジネスに関する機能をすべて一通りそなえた組織に収支責任を持たせて、事業に参入するのである。
2,3期実行してみてその事業が上手くいきそうであれば本体に事業を引き継ぐ、上手くいきそうでない場合は、ビジネスモデルを変えて再チャレンジしてもよいし、手を引いてもよい(その事業には本体は参入しない)。
社内ベンチャー企業と緊急展開部隊の違いは、ベンチャーは事業に成功し生き残ることが目標だが、後者の目標は、事業に関するAh−Haの獲得で、事業に成功しても失敗しても一定期間経過後に本体に事業を引き継いで撤退することにある。要は、本体が本格出動するまでの期間を支えるのが役目である。緊急展開部隊とは、「一戦(ひといくさ)して状況を的確に把握する組織」のことなのである。