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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.72  HRM戦略(4)手掛かりI 競争の仕方 即応性

行軍速度を上げる

   お客さんのニーズの変化に素早く応える能力を高めることによってリスクを軽減する方法はいくつかあるが、基本は「行軍速度をあげる」ということにつきる。この場合、行軍速度とは軍事用語でいえば、例えば、「敵の(防御が弱いとおもわれる)部隊を攻撃するために(優位性を確保するのに十分と思われる)部隊を移動させる際の速度」のことである。

迅速に動かすことができないと、敵も弱点や当方の動きに気が付いて補強をしてしまうかもしれないので、速度は相対的である。相手よりも早く目的地に到達すればよい。

   ビジネスの場合、行軍速度は、事業を展開する速度と考えられるが、「選択と集中」というフレーズで表現されることが多い。事業や研究開発の分野を整理することにより効率を上げようというものだ。ところが、集中のための行軍速度について緻密な分析や判断が伴わないケースがしばしばある。

「いつまでに、どのくらい戦力を特定の地点に集中できるか」が課題であり、それは競争相手の行軍速度によっても左右される命題であるにもかかわらず、「自分の出来る範囲で内部リソースの配分を変える努力をする」ので、結果が伴わない。日本の場合、軍事に関する知識が十分でないため、「選択と集中には行軍速度が伴うという常識」に欠けるのだ。

 

知識の集積を活用する

  行軍速度を上げる方法の一つが集積された知識の活用である。例えばシリコンバレーのような産業集積地で事業をする場合、他人の専門能力を活用しやすいので、変化対応速度をあげることができる。産業の集積が生まれる理由は、ネットワークを形成することによりリスクを軽減できるという利点があるが、専門技術というリソースの効率的な組み合わせにより事業展開の速度をあげることができるという効果もあるためだ。

  知識が集積された場所に自己の研究開発拠点を作り、face to faceで情報を入手、すばやく事業や製品に反映させるというのは、その典型例であろう。

 

緊急展開部隊を用意する

  行軍速度を上げる方法のもう一つの方法は、他に先駆けて変化に即応することを専門とする組織を創るというものである。製造業でいえば最も原型的な形態は、試作部門をどこに置くかという問題と等しい。

研究開発の結果を出来るだけ早く実際の事業に結び付けたいという場合、例えば製造部門に所属する試作担当部門を分割し、その一部を研究開発部門に置き、製造部門に残った部隊は量産試作に専念するという組織変更がそれである。研究開発などで他社に遅れをとった場合、特別研究チームをつくって追いかけるというのもよくみかけるケースである。

  この考えを事業全体に置き換えたものが、緊急展開部隊の創設である。緊急部隊については組織と戦略という視点からコラムvol.67(緊急展開部隊)vol.68(緊急展開部隊が成立する条件)で考えたが、お客さんのニーズの変化にすばやく応えるという意味でも有力な手段である。

ある局面で、新しい事業の方向はこっちではないかという感触を得たとしよう。その場合、試作品をつくりテスト販売をし、市場の反応をみてから本格的に事業に取り組むという形式は標準的な方法であろう。しかしこれでは、これまであまりよく知っていなかった新しい市場に参入しようとする場合、時間がかかりすぎ、せっかく得た「今後の方向はこっちではないか」という発見を活かしきれない。そこで、ある程度の規模で、ビジネスに関する機能をすべて一通りそなえた組織に収支責任を持たせて、事業に参入するのである。

2,3期実行してみてその事業が上手くいきそうであれば本体に事業を引き継ぐ、上手くいきそうでない場合は、ビジネスモデルを変えて再チャレンジしてもよいし、手を引いてもよい(その事業には本体は参入しない)。

  社内ベンチャー企業と緊急展開部隊の違いは、ベンチャーは事業に成功し生き残ることが目標だが、後者の目標は、事業に関するAh−Haの獲得で、事業に成功しても失敗しても一定期間経過後に本体に事業を引き継いで撤退することにある。要は、本体が本格出動するまでの期間を支えるのが役目である。緊急展開部隊とは、「一戦(ひといくさ)して状況を的確に把握する組織」のことなのである。

 

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