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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.73  HRM戦略(5)手掛かりII 正しい答えは一つ(Best)か、多数(Better)か

帝国主義の二つのタイプ

  21世紀型人材マネジメントを考える際の手掛かりの二番目は、「正しい答えは一つしかないのか、それとも状況によりいろいろある、と考えるのか」という設問に対する答えだが、グローバルな競争という環境下では、複雑性に対処しなければならないという視点から考えると、基本(プラットフォーム)と応用(機能デバイス)という形になると思われる。ではHRMのどの部分を世界共通のプラットフォームとすべきなのであろうか。この問題に答える前に、世界中に統治制度を広げるケースという意味で、帝国主義について観察するのが良いと思う。

  帝国主義の一つのタイプは、自国の方式を植民地にも同じように適用するという方式。宗教や政治制度など自国のものを持ち込み、それ以外のものは認めないというやりかたである。これに対して、これだけ守ればあとはその地域のやりかたでよいとする方式。統治される側からみると自由度が高いほうがよいのだが、統治する側から見ると自国の制度と同じ部分が多い方が、仕事はやりやすいということになる。

 

自国流の人材マネジメントで押し通す

  人材マネジメントの場合、欧米企業は自分達の方式がグローバル・スタンダードだとして、世界中に同じ方式を適用する傾向が強い。部分的に現地の労働慣行や労働市場の状況から、実情にあわせることはおこなわれるとしても、大部分は本国の方式が採用され現地の従業員も、「これが進んだ方式だ」として受け入れてしまう。
これはある意味で、帝国主義に近い。複雑性の制御という視点でみても、世界中同一方式であればコントロールしやすい。問題点は文化の違いをHRMの制度上、どのように吸収するかである。

  たとえば同一な内容の質問紙を使って全世界的にモラール・サーベイを実施し、結果が思わしくない場合には改善をうながしたり、HR部門の評価を低下させたりする制度の場合、日本は、仕事に対する満足度に関係なく、スコアが低く出る傾向が強い。このため日本IBMの人事部門は、その昔、大変苦労したという話を聞いたことがある。

人を評価するための評価要素ということでも、全世界共通というのは問題をはらむ。
関島の経験でも、ジョブ・グレード制の導入時、アメリカのコンサルタントの質問に、「1セントでもおろそかにせず伝票をチェックする」と答えた日本人経理責任者の格付けが、普通のマネジャー以下になってしまったことがある。
そんな細かいチェック(実際そうなので、我々はおおいに苦労したのだが)をする人が経理部門のトップ(トレジャラー)であるはずがないという訳だ。
説明に苦労したのは言うまでもない。
 

各国別あるいは地域別人材マネジメント

  日本企業の場合、日本流の人材マネジメントが、グローバル・スタンダードだとか、世界でもっとも進んだ方式だとか主張するほどの自信は、持ち合わせていない。海外進出の初期、日本式しか知らないので、それで押し、東南アジアではある程度受け入れられたが、欧米では問題が多発した。
その結果、現地化神話「現地のことは現地に任せよ」が広がり、各国別の制度が出来上がってしまった。

各国別では、人材の評価や選抜が効率的にできないだけでなく、「人を大切にする」と言いながら一方で「現地ルールでどんどん解雇する」というようでは、「どういう会社」という企業としてのアイデンティティにも問題が生まれてしまう。これでは単なる中小企業の集合体で、グローバル企業とは言い難い。
それ故、帝国主義のもう一つのタイプ、「このルールだけ守れば、あとは地域の方式で良い」を参考にすべきと考える。「このルールだけ守れば」に相当する部分がプラットフォーム、あとは機能デバイスということになるが、問題は、何をプラットフォームと考えるかである。

次回はこのことについて考えてみよう。
 

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