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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.107  処遇―再論― 何を奨励するか
 

ビジネスモデルから派生する課題

  21C型HRMの目的が、ビジネスモデルの支援であるので、処遇の原則も「ビジネスモデルをサポートする活動を奨励する」でなければならない。では、「現代のビジネスモデルが抱える基本的課題は何か」をビジネスモデルの構成要件(お客さんは誰で、どういう価値を提供するかと言う問いと、どうやって競争に勝つか)に従って考えてみよう。

  1. ビジネスモデル全体としての課題は、環境条件の変化に素早く対応することで、キーワードで言えば、俊敏agile, 旅程journey, 変化への備えreadiness である。従って、処遇制度は、この三つの課題に応える活動を応援する仕掛けでなければならない。

  2. ビジネスモデルの持続可能性を支えるのは、コラムvol.95で説明したように企業文化である。従って、処遇制度は、企業文化が時代の変化に素早く対応するのに必要な活動を応援する仕掛けと言い換えることもできる。
    具体的には、企業文化が持つ時間軸基準、顧客基準、効力感基準を環境条件と照らし合わせて変革する力の支援が大切になる。

  3. 上記を前提にビジネスモデルの構成要件についてみてみると、お客さんに関しては、変化の激しい時代にあっては、お客さんのニーズの変化を素早く感知し、それを組織の認識にさせ、会社の施策に反映させる能力が最も重要になる。いわゆる戦略ミドルとしての機能だ。競争に勝つためにも、競争相手の動きの「感知、組織認識への転嫁、対策の実行」が大事になるので、この三つの機能に着目し処遇制度は設計するというのが基本方針になる。
 

昇給・昇格は、定期から随時へ

  21C型処遇制度としてこれまで考えてきたことは、

  1. 水準の決め方は市場中心主義:当事者間の交渉(代理人型もあり)による個別契約、インセンティブとベネフィットの区分、買取り制あり、取引のコストの勘案など

  2. お金でない報酬の重視:キャリア形成の機会、能力開発支援策の充実(サバーティカルを含む)、仕事のやりがい、など

  3. ビジョンとの整合性の重視:好き嫌いの明示、LTIPによる長期的思考の奨励や強欲資本主義の抑制、チームビルディング能力の強化など

であったが、取り組むべき項目として上記は、修正の必要はないと思われる。しかし、変化対応要件である俊敏、旅程、準備から見た場合は、いくつか修正すべきポイントがある。それは各人の処遇を改訂する時期、誰が主導するか等である。

   これまでは、年に1回4月にとか、契約改訂時とか、、定められた時期に昇給や昇格を行うのが普通で、評価の責任者は所属部門の長であるが、これを随時に、そして責任者はチームリーダーに改めることが必要と考えられる。これは、仕事の進め方の変化に強く関係する。

 

個人に着目からチームに着目へ

  環境条件の変化が激しい事業にあっては、変化を感知してから対応策を見つけ実行に移すまでの手法は、米国の場合、従来のWaterfall モデルからAgileモデルに移行しつつある(コーヒーブレークvol.54 Wharton RAG 報告の3項HR goes Agile 参照)。Agile モデルとは、課題解決を試みる際、考えられた対応策の案ごとにクロスファンクショナルなプロジェクトチームを作り、チームの考えだした解決案を実際に一部の事業部門に適用してみる。そして、一番結果の良かった案を全社的な制度として採用するというやり方である。目的地にたどり着けることが肝要というjourney の考え方を満足させるだけでなく、こういう仕掛けについてのノウハウがたまれば、次なる変化への備えreadiness もできる手法である。この場合、ベストな結果を出したチームに報いるのは当然の事であるが、他のチームで頑張った人にも報いなければならない。

  通常チームリーダーは、この問題の解決にはこういう方式が良いと提案した人が任命されるが、チームの結成に当たっては、自分の案の有効性や実行可能性を説明し、「この指とまれ」と仲間を集めたり、必要な技能を持つ人材を参加するよう説得したりしなければならない。ある意味で人事異動の権限が委譲されなければ、人集めは出来ないのだ。

また、目標達成の過程では、リアルオプションとHRMで触れたように(コラムVol.106)中間目標の設定とGo or No go 判定が不可欠で、それには業績評価がともなう。早く結果を出したいから同時に多数のプロジェクトを走らせているので、全体の結果が出るまで評価を待つようでは、優秀なメンバーをキープできない。優秀な人材を集めたり 、引き留めたりするためにも、スポットでのボーナスや昇給が必要になってくる。つまり、チームに人員や予算に関するが権限委譲されると同時に、業績もチームごとに評価することが必要になるのだ。日本の場合、このような状況が直ちにトレンドになるとはおもえないが、HRMの対象が、個人からチームに移りつつあるとの認識が必要と思われる。

 

 

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