ホーム  
3Dラーニング・アソシエイツ

MIAコラム:キャリア形成と戦略

キャリア形成と戦略(7)先行優位の戦略 

熟練が要求されるキャリア

 自分のこととやりたいことが、人より先にハッキリ分かった人は、先行性を活かす戦略をとるべきだ。この戦略は、ラーニング・カーブ(学習曲線)がよく効くキャリア、すなわち、累積した経験の量が増えるにしたがって能力が向上するようなキャリアの場合、特に有効である。たとえば機械加工のように熟練を要する技能の場合は、出来るだけ早い時期から訓練を始める方が良い。スポーツも、種目によっては小さいときから始めないと一流になりにくいものがある。コックさんや大工さんも同様である。経営者の場合も、失敗した経験や苦しい場面を切り抜けた経験が多いほど育つので、できるだけ早い時期から訓練を始めるにこしたことはない。

 

将来が予測できた場合

 この戦略が適用可能なもう一つのケースは、選んだキャリアを取り巻く環境に、将来起こりそうな変化の重要度を、人より先に理解できた場合である。例えば、グローバリゼーション3.0という時代になって「人々が働く場所を世界中から選択するという傾向が強まる」と考えたとしよう。その場合、人材マネジメントに携わる人にはどういう知識や、スキルが必要かを考え、その獲得に目標に絞る戦略である。

 人々が働く場所を選択するという現象を企業の側から見ると、人に選ばれなければならないということだ。優秀な人材を魅了したり、現在いる優秀者を引き止めたりする力が今以上に必要になる。そういう力の一つが人材開発力であろう。「ここにいれば、自分の能力を十分に伸ばすことが出来る」と思えば人は集まってくる。よって、「人材マネジメントにおける人材開発分野のウエイトが高まるので、学習理論やキャリア論について理解を深めておこう」といった考え方である。

 

コア・コンピタンスが必要

 問題は人より先に高めた知識や能力の水準である。将来を予測して、必要な知識やスキルを身につけたとしても、後から追いかけた人が簡単に追いつけるようなレベルでは、先行優位性は保てない。グローバルな舞台で活躍できるビジネスパーソンといったキャリアの場合、英語が出来る、海外経験があるといった程度ではすぐに追いつかれてしまう。MBAの資格を持っていれば、少しは追いつかれにくい。しかし、これとても日本国内の話で、グローバルに考えれば大勢の人が持つ普通の能力である。やはり、世界の専門家から一目置かれる専門性が目標でなければ、先行優位の戦略を採用する意味がない。

 

市場の成熟度

 この戦略を採用した場合、考えなければいけないのは選んだキャリアに対する需要が十分に存在するかどうかといった視点である。別な表現をすると、キャリアにたいする市場の成熟度がどの程度か、を考慮にいれなければならないということである。「ワールドワイドに活躍できる銀行マン」といったキャリアを追求しようと思っても、金融事業にたいする国の規制がたくさんあって、事業の主たる対象は国内企業のみといった環境では、上記キャリアにたいする市場は非常に小さい。先行して開発した能力が使える場所について十分に考えておかなければならないのである。

 
前のコラムへ バックナンバー一覧 次のコラムへ

 関島康雄のこのコラムは、MIアソシエイツのホームページに、2006年12月より9回にわたって掲載され、好評であったので、3DLAのホームページに載せることにしたものです。再掲に当たり、読みやすいよう表現を修正、図表やイラストを入れ、説明不足な点を書き加えましたが、内容的には大きな変更はありません。(本サイトでは全10回での掲載)
※ご意見・ご感想はメールにてお寄せください。メールアドレスは連絡先のページを参照ください。
Copyright since 2006  3DLearningAssociates All Rights Reserved.