人事教育部から国際調達部へとローテーションされ、これまでと仕事の環境が大きく変化したときのことを紹介しよう。
国際調達部の組織の一部である海外購買拠点は、日立製作所の事業部門のために部品や材料を購入しているが、独立採算制であり、購入手数料で海外拠点の費用の全て、人件費や旅費、オフィス運営に伴う費用を賄うことになっていた。事業所は、自分で海外から直接調達してもよいし、本社国際調達部の海外拠点を使って調達してもどちらでもよい。国際調達部は、中小企業17社を傘下に持つ商社のような組織なのである。それゆえ、事業所からの注文を増やすための営業活動が必要な一方、海外調達という専門能力で事業部門を引きつけねばならなかった。このため、知的所有権に関する勉強や契約についてのノウハウのブラッシュ・アップが常に求められた。
日立製作所の本社の社宅は平塚にあり、フランスから戻ってからはそこから御茶ノ水まで通勤していた。しかし、国際調達部門に移って海外出張や新しいお付き合いの数が増えてくると、平塚はいかにも遠い。そこで、もっと通勤に便利で成田や羽田に近いところに住まいを探すことにした。幸い佃の高層マンションに良い物件を見つけることが出来た。しかし、便利なところは家賃も高く、手取り給与の80%以上が必要であった。だが、成田行きのバスが出る東京シティエアーターミナルに直ぐ近く、職場までは25分弱、東京駅も羽田も近いという立地は、何者にも替え難い。給与の不足は賞与で埋めることにして思い切って借りることにした。国際調達の仕事を勉強する時間を買ったのである。