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コーヒーブレーク(6)

 
多国籍労使交渉をめざす動きが復活
ウォートン HRセンター RAG会合でのシュナイダー教授の報告から

歴史的背景

RAG(Research Advisory Group)がつくられた理由の一つが、UAWが1950年代、国際金属労連IMFに、米国自動車産業の海外進出に対応するための協議機関WCC (World Company Councils)の設立を提案し、1966年受け入れられたことにある。「多国籍企業と多国籍な労働組合の交渉」が現実味を増したのである。この事象を労使関係論として産学共同で研究しようとして発足したのがRAGである。

「世界各国で事業を展開する会社に対し、組合の方も国をまたがる組織を作って対抗しよう」とする組合サイドの活動は、80年代および90年代の初めは非常に活発で、日立製作所も、タイにおける労働争議について、IMFから電機労連をとおして事情説明を求められた経験がある。また、80年代には、多くの欧州企業がアメリカに進出し、アメリカの労使関係を理解したいと考え、RAGのメンバーに加入した。一方、アメリカ企業も数多くヨーロッパに進出、異質な欧州の労使関係に苦労した。アメリカ、ヨーロッパ双方の要求にこたえるため、RAGはアメリカで開催されるだけでなくヨーロッパでも開催され、具体的な組合側の動きについて活発な情報交換がおこなわれた。90年代初めフランスの工場で労使交渉を担当していた私も、ブラッセルで開催されたRAGのミーティングに出席した記憶がある。

多国籍間で労使交渉をおこなうことを目標とするWCCの活動は、その後停滞する。賃金の低い国での労使交渉にてこ入れをすることにより、仕事が流出することを防ごうという組合の考え方は、それなりの根拠があったのだが、国ごとに異なる労使交渉慣行や企業の独立性に妨げられ、企業別に国際団体交渉をするというアイデアは野心的過ぎて成立しなかったのだ。しかし、シュナイダー教授 Christian Schneider, Managing Director によれば、復活の兆しが見えるという。多国籍労使交渉というテーマは、古くて新しい課題なので、グローバル人材を考える際、考慮に入れなければならない外部環境の一つとして紹介しよう。
 

組合のネットワークとして復活

 WCCが上手くいかなかった理由は、目標が野心的過ぎただけでなく、多くの組合がWCCに交渉の権限を委譲しなかったし、WCCがグローバルに活動するために必要な財政的支援も消極的であったからである。しかし1992年、EUが欧州労働協議会EWC European Works Council の設立を決議し、種々な労働慣行や規則の統合について議論することになったことを契機に、WCCに替わるものとして WWC(World Works Council)がつくられた。WWCは、WCCが組合活動のプロだけで構成された組織であったのと違って、従業員代表が経営側と交渉することができる組織だが、その活動は組合によってモニターされる。
ただしワールドという名称にもかかわらず、数は限定的で、EWCに積極的にかかわる欧州企業にもうけられているに過ぎない。

この点がIMFは不満で、グローバルな組合のネットワークを作る活動の母体として Working Group on Trade Union Networks in Transnational Companies を設立、その第一回会合を今年の5月11,12日の二日間 ジェネヴァで開催した。
討議されたのは
1)ネットワークをつくるためのガイドラインの設定を目標に、そのために何をすべきか、どう協力するか、人材や資金などのリソースをどうするか
2)ILOやOECDのガイドラインを組合の権利を強化する方向に動かすために、ネットワークにどのような役割をはたさせるか
3)安全衛生、教育、均等法やリストラのプロセスといった特定の分野で、グローバルな協定を締結する可能性の追求
4)ネットワーキングのための指導テキストおよび教材
5)セクター別に目標とする企業の選定、などなど。ワーキンググループは、現在、新しいネットワークのためのガイドラインを策定中で、12月にはIMFの幹部会に報告の予定である。

組合間のネットワーキングが実施された具体的な事例としてIMFがよい見本としているのは、今年の4月には、キャタピラーの7カ国の事業所から70人の組合役員がフランスのグルノーブルにあつまり、IMFの役員を交えた情報交換をおこない、将来的には国際的な協定 IFA(International Framework Agreement)の締結を目差すことを確認したケースである。また、WWCの形でIFAを議論しているものにプジョーシトロエンのケースがあるが、労組が労働協議会 Works Council をモニターするプロセスの一部として監査に参画することが議論されている。
 

複合ジャンプや柔道のルール変更と同様な動き

 シュナイダー教授の報告を受けて強く感じたのは、このような活動は、「ルールの設定をとおして自分たちの活動を有利に進める」という欧州が得意な行動様式のあらわれということである。アメリカだけでなく日本も、労使ともにIMFの動きや、組合ネットワークつくりのためのガイドラインにたいするILOやOECDといった国際機関の活動に十分留意する必要を痛感する。
いつの間にか欧州の労使に都合のよいガイドラインライン、例えば「ワークカウンシルといった組織を作らなければならない」というようなルールできてしまうと、日本とアメリカに共通する「当事者どうしで決定する」という方式に変わって、「モニターという形で関係のない第三者が介入する」方式が世界標準になってしまう可能性もでてくるからである。

以上 

 
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