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コーヒーブレーク(11)

 
健康保険料をどう削減するか(ミッシェラン・アメリカの経験)

二年ぶりに参加したウォートンのRAG Meeting の報告

※ウォートンのRAG Meetingについては、コーヒーブレークの(2)を参照。

  日本でも健康保険料の会社負担分の増加が問題になっていますが、アメリカでも医療費の上昇に伴いヘルスケアコストの増加が大きな問題となっています。とくに保険料が経験主義(給付を受けた金額が増えると保険料の料率が増加する)で決められるアメリカでは、「いかに病気をへらすか」がコスト削減に直結しています。講師は、Michelin North America の元Chairman and President リーチャード・ウィルカーソン さん。

  ミッシェランは、小生にとってはとても懐かしい会社の一つです。1970年代後半、北米にたくさんの欧州企業が進出しましたが、欧州と異なる労使慣行に苦戦し、アドバイスを求めてRAGに加入しました。ミッシェランもそのうちの一社で、ちょうどそのころ日立もメンバーになったので、お互い「文化が違うと考え方はこんなに違うわけ!」とアメリカの「組合を作る権利も作らない権利もある」という考え方に目を白黒させながら新入りどうしで仲良くなったのです。

  ミッシェランは北米(含むメキシコ、カナダ)に18工場をもち従業員はおよそ2万人です。グッドリチを買収して北米に進出し、長期雇用を前提とした人材マネジメントを実行しています。昨今の不況期もワークシェアリングの考え方を採用、労働時間を75%にカットすることにより人員整理を回避しました。以下はミッシェランが採用した対策です。
  

健康保険料の抑制策A Way to Control Healthcare Costs

(1)ヘルスケア制度の再設計にあたっては、専門知識のある人材を所属の組織から引き抜き制度改定業務に専念させた。特に、糖尿病の患者が1000人を超えるという状況から、ライフスタイルの変更という課題は避けて通れないため、どのような選択肢を保険制度上盛り込むとライフスタイルの変更に効果があるかの研究に注力。

例えば、コレステロール値や血圧、血糖値などを測定する検査を選択で受けることができる規定の導入はその一例(通常、年間に使える医療費の限度額があるため検査に費用を使いたがらないが、検査をうけていると医療給付の除外対象となる金額が少なくなる、すなわち自己負担額が減少する、制度を導入)。運動や禁煙の奨励にも同様のインセンティブを工夫した。

(2)セカンド・オピニオン取得上の工夫もまたその一例で、従来の方法だと別な病院にいって同じ種類の検査を受けるというケースが多かったが、前に受けた病院の検査データ持参しない場合は、健保は費用を給付しない(よって自己負担)、あるいは給付額を減額する規定を取り入れた。病院によってはほかの病院の検査は信用しないので再検査というところもあるので、病院をよく選んで欲しいということ。

(3)上記ルールは扶養家族にも適用。(通常アメリカでは働いている家族は、自分の保険に入るかそれともほかの家族の保険に入るか選択が認められている。そのため、家族のライフスタイルの変更も必要)

(4)制度改定の投資効果の測定は、新しいヘルスケア制度による保険料増加分と保険給付金額の減少額

 

複雑な保険制度はNo

  保険契約の約款は複雑なので、日本でもよく読まない傾向は強いがアメリカでも同様で、2009年に導入した折角の新制度も、ややこしいと従業員の反感を買い、新プランに切り替えを選択する人はあまり出なかった。そこで制度の単純化に踏み切り、導入後3年後までに対象者の78%が新制度に移行したとのこと。

  日本から見ると検査項目の選択、運動や禁煙の奨励などそれほど目新しく感じられないかもしれないが、自動車保険が事故を起こすと保険料が高くなるのと同様、病気にかかると保険料があがる健康保険は、基本的にコストをおさえる構造を持っている。高齢化が進む日本も、一律型保険料を見直すことが必要なのではないか。セカンド・オピニオンについてのルールも参考になると思う。

 
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