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コーヒーブレーク(25)

 
LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後

変化の兆し

  だいぶ前になるが、長期の報償給としてロングターム・インセンティブ・プラン(LTP あるいはLTIP と表示) を紹介した(コラムvol.18「処遇(5)長期報償給( Long term incentive plan )」)。

非上場会社が、優秀な人材の引き留め策としてストック・オプションのかわりに導入するケースが多く、採用を検討する日系企業も散見されたからである。だが最近、米国企業のLTIPの設計方式に変化の兆しが見えるので報告する。

  

原因は自社株買いの流行

  自社株買いとは、余剰資金で自社の株式を購入することにより流通する株式の数を減らし、一株当たりの利益を増やす方法で、一株当たり利益が増えれば、株価が上昇、株主は得をするという仕掛けだ。

この方法は、手持ち資金を活用できる有利な投資先が当面みつからない場合、株主に報いるため使用される。最近ではGEが$50billion の自社株買いをアナウンスしたし,昨年はアップルが $90billion、エクソン・モービルが$13billion のバイバックを実行した。IBMは2000年以降で合計$108billion の自社株買いを実施している。

 

格差問題の高まり

  問題は、自社株買いによりエクゼクティブの報酬がストック・オプション(目標株価を上回れば、オプションを行使することにより差額が支払われるので)を通して、ますます高くなることだ。そのため株主の要求に応えるためというよりは、お手盛りで報酬を増やすのに使われているのでは、という批判が絶えない。

  そもそもアメリカのCEOの報酬は、平均的従業員の300倍と高く、20倍ぐらいが妥当ではないかというコンサルタントの意見(例えばピーター・ドラッカー)をはるかにこえている。(4月15日 New York Times)

 

長期投資家の反撃

  手元資金が豊富であるにもかかわらず、積極的な投資を行わない企業に対し激しく攻撃する投資家は,アクティビストactivist investors とよばれ, 「使う予定がないのなら、投資した資金を返して欲しい」と主張する。しかし、最近は、自社株買いの流行に異をとなえる投資家もでてきている。アクティビストのプレッシャーにまけて、手元資金を配当や自社株買いに使ってしまっては、株価の上昇に繋がっても、長期的価値の創造には役立たないというわけだ。
株主には年金受給者もいて、短期的株価の上昇や配当の増額よりも、企業が成長を続け、配当を払い続けてくれることを期待するはずだし、内部留保は、本来熟練労働者の育成やイノベーションに使われるべきだという、持続可能性重視の考え方である。

LTIP 計算式の改定

  ストック・オプションと同様、LTIP が企業の短期志向を助長するという批判に応えるために、その算式を変更する動きが出てきている。

通常LTIPは、3年ないし5年以内に目標数値を達成することによりインセンティブが支払われるが、この期間を長くする。例えば、8年間一株当たり利益の増加率を維持するという目標であれば、短期的に自社株買いで達成しても後が続かない。8年後の利益額を3倍といった目標なら、一年あたりのアップ額に拘っても仕方がない。より抜本的な対策が必要である。また、3〜5年の期間であると景気変動の影響を受けざるをえないが、7〜8年のタイムフレームであれば景気の変動サイクルをまたぐので、本格的な体質改善がおこなわれないと数値は達成できない。長期的な志向が必要になる。

  最近の事例では、ゴールドマン・サックスが計算式の期間を延長したとのこと。ゴールドマンのCEOの報酬の高いことで有名なので、本件で少しだけ批判に応える姿勢を示したのかもしれない。

 以上
 

【ご参考】
ロングターム・インセンティブ・プラン(LtipあるいはLTP)について興味のある方は、ぜひ次のコラムも併せてご参照ください。なお、3Dラーニング・アソシエイツではジョブ・グレード制の導入やLtip導入のお手伝いもいたします。関心のある方は連絡先へご相談ください。

<関島の書き下ろしコラム>
■21世紀型人材マネジメント
vol.18 処遇(5)長期報償給( Long term incentive plan )
■コーヒーブレーク
(37) LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後II クローバック条項
(43) LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後III Ltip 対 強欲資本主義

<弊社パートナーのコズロフスキーが執筆「Reports from New York」>
vol.11 Long-Term Incentives or LTI’s
vol.24 LTIPs and “Clawbacks”


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