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コーヒーブレーク(33)

 
組織内一人親方のすすめ 2.0 IV
 

キャリアの不確実性対策としてのリアル・オプション

  不確実性の程度を区分することにより、対処策を考えやすくしよう、というのが「不確実性の4象限」だが、思わぬことが起こった場合の対処策を予め用意することにより、リスクを軽減するという対処策もある。それが、リアル・オプションと呼ばれる戦略策定上の考え方である。

もともとは、金利、株価、債券価格、為替など、いろいろな動きをするものの組み合わせ(ポートフォリオ)により、金融資産価値の変動という不確実性に対処しようとするものだが、不確実なものは、金融市場の動きだけではない。研究開発や企業経営なども不確実性が高いものなので、その理論は適用が可能と考えられ、それぞれの分野に取り入れられはじめた。

キャリアもまた不確実性が高いものなので、この理論が応用できると、組織内一人親方のすすめ 2.0 では考えている。例えば、起業する場合のリスクの低減策として、である。だが、それを説明する前に、リアル・オプションとはどんなものなのか、研究開発に適用した場合を事例に説明しよう。

 

研究開発の場合

  研究開発は、かならず成功するとは限らない。失敗の可能性も大きい。そこで、一つの方向に、予算の全部を一度に投入するのではなく、研究開発の進捗状況を見ながら、適宜資金や人材を投入することでリスクを低減する、という方法である。

具体的には、可能性が高そうな研究方法を複数選び、一定の研究が進んだところで、さらにその先の研究を進めるかどうかを判断する。有望でないと思われる方法は中止、成功の可能性が高そうな研究方法には継続する。研究を進めるか、中止するかを判断する会議をGo or No Go meeting とよぶが、そのことでもわかるように、この方法のポイントは、この判断をする審査基準を何にするかで、「この時までに明らかになったこと」と期限を限って将来性を判定する場合もあるし、「どれか一つの研究方法で、更に研究が必要なことは何かが分かり始めた場合、関係者を集めて審査会を開く」という決め方もある。

要はいくつかの選択肢の中から、順次、可能性の高いものに、リソースを移していくことにより、リスクを低減しようとする。判定の方向もいろいろで、「リソースを投下して研究速度を上げる」というものから、「別の方法でもう一度試してみる」、「あきらめないけれどリソースは増やさない」、「すぐに中止」などいろいろである。

 

キャリアに適用する場合

  職人は親方のところに弟子入りして腕を磨いた後、時期を見て独立するが、これと同じように、初めは組織に所属して組織内一人親方をめざし、その後やりたいことを見つけたら、独立したいというキャリアプランの場合にリアル・オプションの考え方は応用できる。


1.種まき期:仕事をしながら自由に活動できる時間を使って、やりたいことを探す期間。専門性が高まるにつれ次第にやりたいことも明らかになってくるので、実現可能性がありそうなアイデアを一つではなく複数設定する。
2.立ち上げ期:社内外の人脈を活用し、うまれたアイデアの実行可能性をそれぞれ検討し、Go or No Go を決定する。この時の判定が撤退の場合は、種まき期の活動に戻る。Go の場合は事業のアイデアを深堀する(例えば商品の試作品を作る、提供するサービスのプロトタイプを作る)ことになるが、審議ポイントの設定が重要になる。試作品の完成時、試作品のテスト販売の実行後、などの時点を定め、そのポイントに到着ごとにGo or No Go を決定する。

ここまでは、組織に所属していても、勤務時間外の時間を使ったり、外部のリソースを活用したりすれば不可能ではない。オプションには、説明したようにプロジェクトの延期、規模の変更、手段の変更もあるので、資金面を含めて、なんとかなりそうだと確信が持てた時点で独立すればよい。
審議ポイントでの判断には、組織内一人親方としての経験が役に立つはずである。だが、腕前が未熟だと判断を間違える可能性も高いので、その辺は十分心に留めておく必要がある。

 

つづく

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