不確実性の程度を把握するために、マネジメントの複雑性(縦軸)とビジネス環境の不安定性(横軸)という二つの座標軸で、企業のおかれた状況を
コラムvol.32で検討した。この時の企業の区分する考え方のベースになっているのが貿易理論である。日本企業の海外事業の発展段階は、かなりな程度、貿易理論の発展と連動している。そこで、簡単に貿易理論の歴史を振り返ってみたい。(以下の説明は「新々貿易理論とは何か」田中鮎歩、ミネルバ書房による)
■伝統的貿易理論(19C〜)
これはリカード、ヘクシャー=オリーンの説として広く知られているが、貿易が産業間の比較優位性に基づいて発生するという理論で、資本集約的産業が強い国と労働集約的産業の強い国の間で貿易が発生することを説明できる。資本集約的産業が強い国では、労働力が希少で、そのため労働集約的製品の価格は高くなりがちなため、安い国からの輸入が発生する。反対に労働集約的産業の強い国では資本が希少なので、資本集約的製品の価格が高く、輸入が発生する。この説明は、同一産業内の企業で、輸出が出来る企業と出来ない企業があることは説明できない。(もともと企業の比較優位は議論されていない)
■新貿易理論(‘80〜)
貿易理論でいえば、資本集約的産業の強い国(先進国)と労働集約的産業の強い国(発展途上国)の間に貿易が盛んになるはずだが、実態は先進国間のシェアが多いことから、同一産業間で比較優位が発生する理由を考えたのがクルーグマンの理論で、(1)企業間に優位性の差がなくても、自国で生産されていない種類の製品には需要が発生する。(消費者の選択)(2)規模の経済が働く(たくさん作っているものは、コストが安い)
(3)輸送費用を織り込む必要がある(輸送費用をカバーできる程度Aが効くことが必要)と考えた。
■新・新貿易理論(‘00〜)
輸出企業が、少数の生産性の高い企業にだけ見られるのはなぜか、という疑問から、そもそも「なぜ企業は輸出するのか」に答えようとしたのがスタートで、企業の輸出決定の動学理論とよばれる。答えは、(1)輸出のための輸送費だけでなく、情報収集費用、担当者人件費などの初期投資を回収できる程度の利潤を上げる見込みがあることだが、それには初期費用削減をサポートするインフラ(例えば商社や金融、保険のシステムなど)も必要になるので、それらインフラの整った先進国間で貿易は盛んになる(新貿易理論を支持)。
さらに、「貿易の経済全体に対する影響」を検討したのがメリッツで、その理論は「企業の異質性モデル」と呼ばれる。内容は、貿易に乗り出せる企業は上記(1)が達成可能な高い生産性を持つ企業で、さらにそれより高い生産性を持つ会社は(2)海外に工場建設などの直接投資が可能となる。貿易の自由化が進むと貿易コストがさがり輸出可能企業が増えるので(3)非輸出企業は労働力や資金確保の面で不利となり、市場からの退出を迫られるという資源の再配分効果が生まれるというものだ。