ホーム  
3Dラーニング・アソシエイツ

コーヒーブレーク(34)

 
組織内一人親方のすすめ 2.0 V
不確実性の4象限と新・新貿易理論

貿易理論の発展

  不確実性の程度を把握するために、マネジメントの複雑性(縦軸)とビジネス環境の不安定性(横軸)という二つの座標軸で、企業のおかれた状況をコラムvol.32で検討した。この時の企業の区分する考え方のベースになっているのが貿易理論である。日本企業の海外事業の発展段階は、かなりな程度、貿易理論の発展と連動している。そこで、簡単に貿易理論の歴史を振り返ってみたい。(以下の説明は「新々貿易理論とは何か」田中鮎歩、ミネルバ書房による)

■伝統的貿易理論(19C〜)
  これはリカード、ヘクシャー=オリーンの説として広く知られているが、貿易が産業間の比較優位性に基づいて発生するという理論で、資本集約的産業が強い国と労働集約的産業の強い国の間で貿易が発生することを説明できる。資本集約的産業が強い国では、労働力が希少で、そのため労働集約的製品の価格は高くなりがちなため、安い国からの輸入が発生する。反対に労働集約的産業の強い国では資本が希少なので、資本集約的製品の価格が高く、輸入が発生する。この説明は、同一産業内の企業で、輸出が出来る企業と出来ない企業があることは説明できない。(もともと企業の比較優位は議論されていない)

■新貿易理論(‘80〜)
  貿易理論でいえば、資本集約的産業の強い国(先進国)と労働集約的産業の強い国(発展途上国)の間に貿易が盛んになるはずだが、実態は先進国間のシェアが多いことから、同一産業間で比較優位が発生する理由を考えたのがクルーグマンの理論で、(1)企業間に優位性の差がなくても、自国で生産されていない種類の製品には需要が発生する。(消費者の選択)(2)規模の経済が働く(たくさん作っているものは、コストが安い)
(3)輸送費用を織り込む必要がある(輸送費用をカバーできる程度Aが効くことが必要)と考えた。

■新・新貿易理論(‘00〜)
   輸出企業が、少数の生産性の高い企業にだけ見られるのはなぜか、という疑問から、そもそも「なぜ企業は輸出するのか」に答えようとしたのがスタートで、企業の輸出決定の動学理論とよばれる。答えは、(1)輸出のための輸送費だけでなく、情報収集費用、担当者人件費などの初期投資を回収できる程度の利潤を上げる見込みがあることだが、それには初期費用削減をサポートするインフラ(例えば商社や金融、保険のシステムなど)も必要になるので、それらインフラの整った先進国間で貿易は盛んになる(新貿易理論を支持)。
さらに、「貿易の経済全体に対する影響」を検討したのがメリッツで、その理論は「企業の異質性モデル」と呼ばれる。内容は、貿易に乗り出せる企業は上記(1)が達成可能な高い生産性を持つ企業で、さらにそれより高い生産性を持つ会社は(2)海外に工場建設などの直接投資が可能となる。貿易の自由化が進むと貿易コストがさがり輸出可能企業が増えるので(3)非輸出企業は労働力や資金確保の面で不利となり、市場からの退出を迫られるという資源の再配分効果が生まれるというものだ。

  その後この理論は貿易だけを対象とするだけでなく「外国直接投資」を対象として発展する。結論だけ要約すれば、企業の生産性の高い順序は、国内生産委託<国内生産<外国生産委託<外国子会社生産(持ち帰りの発生)となる。

 

不確実性の4象限へのあてはめ

  貿易理論の発展に従って企業を生産性順に、コラムvol.32の不確実性の4象限に当てはめると、Aに入るのは国内中心事業だけに留まる企業、Bに入るのは自力で現地生産に踏み切る企業、Dは他力を活用して輸出現地生産と進む企業に分かれるが、やがて現地法人の周辺国や日本に輸出出来る企業Cは、特定の国の市場だけでなくグローバルな市場を対象に行動するグローバル企業となることが分かる。

  日立製作所の経験でも、初期に海外工場を建設したのは輸出量が増加し、現地生産の初期投資回収コスト+現地生産コスト+部品・材料の輸送費 <日本での製造コスト+製品輸送費 が成立した製品で、人件費の安さと、部品と製品の輸送費差を利用している。60〜75年、東南アジア中心に現地法人を設立したのがそれである。先進国向けは、人件費の高さ、が影響して別な理由が必要になる。75〜86年は貿易摩擦を回避と市場の確保を目的に、競争力が強く初期投資に耐えられる製品事業(新々貿易理論の外国直接投資可能な生産性を持つもの、VTR、半導体、大型ディスク、自動車部品等)が先進国に進出した。

  しかし00年以降は、韓国や台湾、中国など新興国企業との競争や先進国との技術開発競争の結果、固定費を含むコストの回収が難しくなり撤退するという、新々貿易理論の当てはまる状況が続いている。

  マネジメントの複雑性と事業の不安定性の2軸で出来た4象限に、企業の海外事業の発展段階を組み合わせてみれば、不確実性の程度もかなり明確になり、企業がどの象限にあるかによって、どのような人材を育てるべきかを考えやすくなる。組織内一人親方のすすめ2.0で、グローバル競争時代の人材像を考える際、採用した理由である。

 

以上

前のコラムへ バックナンバー一覧 次のコラムへ

※この関島康雄のコラムについてのご意見・ご感想がございましたら、メールにてお寄せください。
   メールアドレスは連絡先のページを参照願います。

Copyright since 2006  3DLearningAssociates All Rights Reserved.