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コーヒーブレーク(40)

 
長寿命化とキャリア戦略3 会社が準備しなければいけないことT

会社の戦略目標

  会社側から見た雇用延長に伴う現在の問題点は、60歳時点での個人の能力にかなりの差があることと後進の昇進を妨げる心配がある事、および処遇や仕事の変更によって、本人のモラルが低下しかねないことである。75歳まで雇用する場合にこれを繰り返すのでは進歩がない。70歳の時点で労働条件を見直しするとして、解決策は、「各人の能力に応じて個別に労働契約を結ぶ」であろう。この場合、本人のモラル維持のため同一労働同一賃金の原則は守られなければならない。しかし、同一労働と判定するための基準はなにかについてだけでも理論はいろいろあり、同一労働同一賃金原則の実行は簡単ではない。

  賃金の決め方のトレンドを振り返ってみると(21Cコラムvol.17「給与か、インセンティブか、それともベネフィットか」参照)判定基準は仕事の難しさの度合い。難しさを決めるための要素を決定し、それによってそれぞれの仕事を点数化、その上で点数の範囲を特定してジョブグレードを決め、ジョブグレードに応じて賃金のレンジを決める、というのが主流であった。その後、仕事そのものの変化に対応して、評価要素の見直しや点数の見直し、レンジレートの範囲の拡大や複数ルート化などがおこなわれたが、メンテナンスに手数がかかるので、市場価格で決める傾向が強まってきた、というのが流れである。

  日本の場合は、労働市場の流動性が低いので、現状は市場価格といった数値が使いにくい。「個人が自分にふさわしい仕事に就く」という観点からみると、労働市場の流動性が高い方が望ましい。企業の方から見ても内部資源の再配置の可能性を高めるので、望ましいと考えられる。トレンド的にも人手不足やグローバル化の影響で、流動性は高まる方向にある。だが労働市場の流動性が増加した場合、採用方法や優秀な人材の確保のための処遇制度など、人材マネジメントの大幅な変更が必要になる。
75歳まで働くことが普通になる時期を想定(7〜8年後?もっと早いかも)の上、「75歳までの雇用を前提とする人材マネジメントの確立」を戦略目標にしなければならない。

 

労働条件は選べるという空気の拡大

  現在、個別の労働契約が適用されているのは特殊な技能や技術を持つ人(日本以外の労働市場に所属する人を含む)に限られている。それほど特別ではなくても、日本では不足しているので海外から集める事例(例、豪華クルーズ客船や旅客機の設計・製造に関する職種)もある。今後、人手不足や事業のグローバル化の影響で、対象者は増えると思われるが、この範囲を意図的に広げていく必要がある。例えば、ジョブグレードの上から3番目のグレード迄の職種に適用し、それを順次4番目、5番目のグレードにと広げていく方策である。この場合は、特別な職種に対して適用という視点から正式な制度への切り替えであるので処遇制度として考え方の整理が必要である。この点については次回以降別途検討しよう。

  個別労働契約の範囲の拡大のもう一つのアプローチは、労働条件見直し時に選択の範囲拡大する方法である。後何年働くか個人が選択するだけでなく、一日の労働時間の選択も可能にするのがよい。(企業側から、あなたとの労働契約は1年とか3年とか切り出すのはもう少し後の話)。年間労働時間との関係で給与総額を変更するのは当然である。

  労働条件の見直しは、現状は、定年の60歳だが、定年という区切りと一致する必要はない。定年は、61,62,63と少しずつ引き上げられる可能性が高く、それに伴いプラス5年働いてくださいと言うことで、66までか67までとか、働く期間は伸びていくと思われるが、見直し時期は従来通り60歳としておくことは可能であろう。一方で非正規雇用者やパートタイマーを正規従業員に切り替える際に、勤務地や労働時間に関する選択肢を増やしていくというアプローチも可能である。これにより正規従業員の選択肢も広げられる。

要は個別労働契約とは、選択肢の拡大であり、労働条件は選べるものだという雰囲気を広げていく必要がある。

 

会社が従業員に期待することを明確にする

  75歳まで働いてもらいたいような従業員を増やすために、会社として何をするかだが、一番基本的なことは、会社が期待していることを明確にすることである。例えば、どういう従業員が好きだとか、どういう仕事のやり方が好きだとかである。ビジョンというものに相当するのだが、抽象的でなく選択したビジネスモデルと連動する具体的なものがよい。

  能力開発についての例をあげると、ビジネスモデルの変更、M&Aなどが起こりうるので、「会社は永続的な雇用を保証することは出来ない。しかし、雇用は保証できなくても、よその会社に行っても使うことができる能力を身に付ける機会を提供することは保証できる。機会を提供するが、その機会を利用するか、しないかは個人の判断による」。つまり、能力開発の責任は双方にあるというスタンスを従業員にハッキリと示す。これにともない会社は、幅広く教育プログラムを提供する責任を負うことになる。提供できない場合は、社外のプログラムを利用できるよう、給与にその費用を載せるだけでなく学習のための休暇も取りやすくする必要がある。

この原則に従って能力開発に努めれば75歳まで働いてもらいたい人は増えるはずだ。75歳まで働いて欲しい人とは、どこの会社にいっても役に立つような専門能力を持つプロ人材であるからだ。

 

つづく

 

 
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