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コーヒーブレーク(55)

 
Me Too 時代の人材マネジメント

HRMが抱えた新たな問題点

  昨年6月のWharton Leadership Conference のスピーカーの一人Kelly Martin さんは、内務省の国立公園管理部門のチーフで、Me Too 時代の先駆けとなった人だ。皆が口を閉ざしている不都合な事実を、勇気をもって議会で証言したので、” Silence Breaker “ として、タイムの‘17 Person of the year に選ばれた。講演では、女性森林消防士のパイオニアとして男社会で経験したいろいろなハラスメントを紹介、男女に関係なく「おかしいことは、おかしい」と声をあげることの重要性を強調した。

  実際の業務面では、自然発生した野火は無理に消そうとせず、放置したほうが自然環境の維持に役立つし、大規模な災害も防ぐことが出来ると、国立公園管理の仕事の大切さをPR,パークレンジャーという職業を女性にも開かれたものにすることに貢献した。

彼女の議会証言以降 Me Too は大きな社会現象となったのだが、これは人事勤労担当者に新たな問題を突き付けている。

 

警察官でも裁判官でもないのだが、、、

  通常 Me Too で取り上げられるのは、たいがいは昔の話である。最高裁判事の信任で問題となった事件は、36年前の話だ。従業員から、ハラスメントの訴えがあっても、昔の話だと事実関係の確認が困難である。転職が盛んなアメリカの場合、訴えられた人は既に退職している場合も多く、関係者を見つけるのも簡単ではない。訴えられた本人が直ぐに事実、と認めることもまれだ。事実関係がはっきりしない中で、判断を下すわけにもいかない。

しかし、何らかの措置をしないと会社が責任を問われたり、女性の権利保護に消極的だ、などのうわさを流されたりしかねない。警察でもないので捜査の権限もないし、事実関係を把握しても、裁判官でもないので公平な判定も難しい。時間もえらく取られる。困った。そもそもこういう仕事は人事部門が担当すべき問題なのか。とてもこんな仕事はやってられない、と退職する人も出てきている。

 

グーグル事件

  セクハラ、パワハラ問題が大きくなった背景に、社員の会社に対する不信感の高まりがある。その一例が、グーグルで起きた国防省との契約に反対する署名運動である。グーグルの行動指針の一つにDon’t be evil というのがあるが、軍事用無人飛行機向けのAI開発はこれに反するとして、昨年四月、4000人の署名を集めた事件がある。2019年の国防省との契約更新はおこなわず、AI開発の新たな指針として軍事活用はしないと決まったそうだ。(東洋経済12月22日号特集GAFA全解剖)

この事件の根底には「行動指針って、何よ?たんなるお題目?」という疑問がある。従業員には行動指針として守るよう要求するが会社は守らなくても良いのか、である。10月には、セクハラの指摘を受けた経営幹部が9000万ドルの退職金を受け取っていたことで、抗議集会も開かれた。

 

ルールをどう定めるか

  行動指針やビジョンについての言行一致が個人にも会社にも求められるのだが、それに反した場合の取り扱いルールをどの様に定めるか、というHRM上の課題が浮かび上がってきている。他にも転職後、元の職場の同僚を引き抜かないという労働契約は、職業選択の自由を妨げ、競争制限にあたるのでは、という独禁法上の問題も浮上している。

  Kelly さんは、「森の中で暮らしているので大都会は怖い、皆さんが森の中に来た時の怖い気持ちはよく分かる」と、良く知らない環境を怖さの共通の基盤として話を進めたが、会社の立場と従業員の立場の両方を考え、共通する基盤を見つけていくというのはHRMの基本である。従業員と会社がよって立つ共通基盤は何かを真剣に考えなければならない。

 

以上

 
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