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Wharton RAG 報告 2019
少し遅くなりましたが、6月11日にフィラデルフィアでおこなわれたRAGの会合で、興味深かった講演について報告します。

1.GEの教育プログラムの改定

  スピーカーは、Balakarthikeyan Nagarajan HR Executive Director − Employee Experience & People Analyticsで、演題は Employee Experience at GE: Leveraging Design Thinking and Analytics でした。

  改革のポイントは、各人別に目標とする人物象(ペルソナというマーケティング用語を使っていました。顧客を特徴別に区分し、アプローチの仕方を考える時に使われます)を 設定、それに向けてどのような経験をさせるかを計画するというものです。期間は育成目標により異なりますが6か月から2〜3年で、その間に経験させる仕事や教育プログラムを配置、ストリー展開を想定し、「転機」をつくり出し、能力向上につなげるのが目的です。

  「転機」という訳語が適当かどうか迷いますが、この場合、転機とはthat matter と呼べる瞬間のことで、「自分の次の役割は、これではっきりした!」とか、「クロトンビルに行くことになった、リーダシップの開発のチャンス!」とか「キャリアについて上司と議論でき目標がはっきりした」などなど、自己の能力開発に関し、意味ある切っ掛けをえた瞬間が想定されています。それによって自分の能力アップWhere do I start my developmentを考え始める契機となる瞬間です。

  ペルソナの種類は、将来の経営幹部や専門職などこれまでのキャリアパスの分析から多数つくられ、本人のこれまでの経歴や資質など分析してマッチング、こういう順序で学習するのが良いのではとMap , Journey,とStory board (地図と旅程と筋書)を各人別に提案するとのこと。

  このスピーチに対する参加者の反応ですが、「デザイン志向、分析的アプローチという考え方は、別に反対しないが、従来に比べていかにも手取り足取の感がある。それでいいのかなあ」という感じ。そこで保守派?を代表して関島が「幹部クラスの育成には、教えられるのではなく自分で見つけるが大事、と従来考えられてきたと思う。教育ママのように手取り足取するので良いのか、方針変更について経営幹部とどんな議論がおこなわれたのか?」と質問しました。答えは「議論は、特になし」でした。ウエルチ時代には考えられなかった反応で、経営幹部の人材開発に関する関心の薄さを感じました。GE経営陣は業績対策で忙殺されているのかも。人材開発側も専門知識中心でビジネスに対する関心は薄く、ビジネスとの距離が遠い時代が再現したようでした。「GE危うし」が、会食後のパーティーでのRAGベテラン陣の大方の意見でした。

 

2.増殖する休暇leaveへの対応策

  Designing and Administering Leave Policies in an Era of Proliferating Federal,,State, and Local Leave Entitlement Laws スピーカーは Susan Harthill, Partner, Morgan Lewis and former deputy solicitor for national operations at the US Department of Labor

   米国では、最近いろいろな種類の有給、無給の休暇が登場しています。例えば、傷病休暇 paid sick leave は州法で定められますが、金額や期間について州ごとに大きなばらつきがあります。また、家族に関係する休暇 family leave についても種類が増加する傾向にあります。そこで、どのような問題が存在するか、どのように対応するかが議論されました。

  一番の問題は、妊娠に関係する規定が州ごとに大きく異なる点で、企業と看護師が契約を結び(Nurse Family Partnership )妊娠した人がいつまで働いてよいか、いつ産休に入ったら良いか等について助言を受ける体制をつくることがリスク軽減策として普通になりつつあるとのこと。

  もう一つの問題は、州ごとに異なる種類や日数に関する規定を就業規則上に、あるいは労働契約上にどのように取り入れるかです。

  Federal Contractor ( 州の境界を超えてビジネスを行う企業、連邦政府の仕事を引き受ける事業者で、大企業はたいがいこれにあてはまる)は、州法の対象がとすることが出来る規定を使って、キーとなる従業員については、特別にルールKey employee exemptionを設定することがよいとの意見でした。労働契約上、使用理由は限定せずにpaid leaveの日数だけ決めておくやり方です。病気にも、子供のサッカーの試合の応援にも結婚記念日にも,地域別に異なる祝日にも使用可なので、評判は良いようでした。

  日本でも、産休や傷病休暇の開始時期について専門家の意見を参考とする制度は、リスク対策として有効と思われます。また、各人別に労働契約を結ぶ時代がくれば、使途自由の有給休暇の日数をインセンティブとして使うことは十分考えられます。どちらも今後の参考事例として有効と感じた次第。

 
 
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