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勝つためのチームビルディング
  (JMAマネジメントレビュー 2009年6月掲載)

 

1.なぜ本格的なチームが必要か

 問題が複雑になった

 最近、職場についての悩みを聞くと、「コミュニケーションが悪い」「言われたことしかしない」といった声が返ってくる。「人間関係がドライになった」とか「個人主義の弊害」という意見もきかれる。しかし、本当の理由は一言で言えば、まわりの状況が変わったのに、昔とあまり変わらないやり方しかしていないからである。

 まわりの状況が変わったとはどういうことか。簡単に言えば、問題が複雑になったのだ。昔は、車が欲しいとかテレビが買いたいというように、人々が欲しいものがはっきりしていた。企業は、製品をどう作るかを考えればよく、職場に要求されるのはコストと品質の作りこみであり、それは、ある意味で答えが出しやすい課題であった。組織も正規従業員が中心であり、お互いの気心がしれていて、まとまりやすかった。
しかし、まわりに物があふれ、人々の欲しいものが多様化してくると、どう作るか(how to make)よりも,何をつくるか(what to make) が大切になってくる。当然、職場に要求される課題も単純ではなくなってくる。たとえば、売れない理由がデザインであれば、コスト削減に全力をあげても、努力はむくわれない。職場も正規従業員だけでなく、派遣社員、パート、アルバイトといろいろな雇用形態の人がいて、それぞれの人が仕事に対して抱く思いもいろいろであり、リーダーが先頭になって号令すればそれですむ、というわけにはいかなくなった。考え方の違う人たちに協力を求めようとすれば、何故その仕事をするのか、それぞれの担当する仕事が全体の仕事にどう関係するか等などを、丁寧に説明しなければならない。

リーダーも答えを持っているとは限らない。売れる洗濯機をつくれといわれても、答えは簡単ではない。お客さんの要求は、音が静か、水の使用量が少ない、生地を痛めない、一度にたくさん洗える、などといろいろあり、使う人の意見、組み立てる人の意見、売る人の考え、廃棄処理をする人の要求などを聞かなければ、答えはでてこない。問題が複雑になったのだ。

複雑な問題は一人で解決することは難しい。いろいろな人の知恵を集め、解決法を考え出さなければならない。解決案の実行にも多くの人の協力が必要である。利害関係の調整も求められる。「チームによる解決」が必要になってくる理由がここにある。

チームとは変化を作り出す組織

 「チーム」という言葉を聞くと、直ぐに「仲良し」を連想する人が多い。お互い助け合って仕事をするという情景を思い浮かべる。しかし、良い仲間であることは、あくまでもチームの条件の一つにすぎない。そもそもチームという言葉は乱用されている。野球のチーム、サッカーのチームもあれば、会社そのもの、あるいは会社の一部分である部や課といった組織をチームとみなす場合もある。一定の目的のために集まって何かをしていれば、すべてチームと呼ばれかねない。しかし、チームは、本来的には一人では解決するのが難しい問題を、限られた期間の間に解決するために、専門的な知識を持った人が集められたものである。お互いに助け合うと同時に、酸素と水素が混じって水ができるように、異なる知識を融合することによって、新しいアイデアを生みだし、問題を解決することが期待されている。個人個人の力量の合計以上の成果を挙げること、いわゆるチームワークの効果、が求められるのだ。

チームは常設の組織とは異なる。チームと組織の違いは「作られる理由」にある。組織は、あったほうが仕事をするのに便利だから作られる。会社のなかには、経理部や資材部といった専門組織がある。特定の機能を受け持つ組織が作られるのは、その方が便利で全体として効率がよくなるからである。その意味では、高速道路やバイパスと同じである。チームも組織の一形態なので、あったほうが便利だから作られるのだが、より具体的に、特定の問題の解決案(現状の状態を、望ましい状態に変更する方策)を考え実行するために作られる。
従って、常設組織も、時に特定の問題解決のために、チームになることが求められる。「急速な円高で受注が落ち込み、業績が悪化した。円高を利用して海外からの調達を倍増、コストを10%以上今期中にカットすべし」というような状況がそれである。チームとは、常設であれ臨時であれ、現状の変更を要求する明確な目標の達成のためにつくられる組織なのである。
 

一試合ごとに強くなるチームでなければならない

  現代の競争は激しい。デジタル技術の進歩とインターネットの普及のお陰で、物を作る工程の分割が従来に比べ飛躍的に簡単になったこともあって、世界中に競争相手がいるという状況が普通になってしまった。勝パターンも長続きしない。ハイテク製品といわれるものも、あっという間に普通の商品になってしまう。今回勝てたからといって次も勝てるとは限らない。勝ち続けることは難しく、たとえていえば、5勝3敗なら試合を続けることができるが、3勝5敗では退場をせまられる。競争に一回勝てば、それでよいというわけにはいかなくなった。
勝っても負けても、一試合ごとに強くならなければ生き残れないのだ。そのため、チームには、「経験を通して学習することと、人を育てること」の二つが強く要求されるようになった。期待される成果を出すだけでなく、「経験から学習し、人を育て、一試合ごとに強くなるのでなければチームと呼ぶことはできない」のである。単なるチームではなく、本格的なチームが必要なのだ。
 

2.本格的なチームの作り方

 チームには、明確な目標が必要

 チームを作る理由は、一人では解決できない何か不満足な状態があり、それを変えなければいけないと考えるからである。しかし、ただ変えたいというだけでは変化は起こりにくい。変える以上、どのように変えたいかという、明確な目標が必要になる。明確な目標とは、何をどのくらい変えなければいけないかが、ある程度、チームのメンバーに分かる目標である。別な言葉で言えば、必要な努力の量と方向性が類推できるということだ。そうでないとメンバーは、どの程度本気を出したら良いかが分からない。

高校野球の地方大会で、いつも一回戦で負けているような学校が甲子園に出場しようと思えば、野球部という組織をチームに作り変えなければならない。この場合、甲子園に出るという目標は明確である。なぜなら、必要な投手力や打撃力の水準も想定できるし、そこにたどり着くまでの練習の量や質も想像できるからである。しかし、それだけでは十分ではない。甲子園にいくということが信じられなければ、目標たりえない。「そんなことは到底無理」と皆が思えば、努力が続けられないからだ。だが、目標に向かって努力するうちに、少しずつ進歩して上位校とも時々は良い試合ができるようになると、「もしかしたら」と思いはじめる。ここから目標達成の可能性が生まれる。

その意味では、目標は、初めから明確でなくても良いといえる。徐々に明確になるのでもかまわないのである。要は、明確な目標とは、「必要な努力が類推でき、もしかしたら達成できると思える目標で、達成出来ればとても嬉しいもの」のことである。

 

目標の共有化ができれば、自律性が働く

 チームには個人個人の力を足した以上の結果を出すことが求められる。そのためには、それぞれのメンバーが自律的に動く必要がある。自律的に動くためには、目標が共有化され、役割が分担されなければならない。目標と分担がはっきりしていれば、やるべきことは分かるので、メンバーは指示がなくても臨機応変に対応できる。「自律なきところにチームワークなし」といわれる理由である。

では、目標の共有化は、具体的にはどういう状態になれば、「目標の共有化が実現できた」といえるのであろうか。それは、自分の担当部分を問題なく実行したとしても、チーム全体の成果が十分でなければ、もっと貢献する方法はなかったかと反省する姿勢ができたときである。例をあげれば、野球でいえば同点で、九回ツーアウトランナー3塁のときサードがエラーして負けたとしよう。サードがエラーしたので負けたのだと他の選手が考えるうちは目標の共有化は今だし、である。そうではなくて、キャプテンが、「あの時、皆浮き足立っていた。俺が一声掛ければよかった」と考え、ライトが「自分の送球がよければ、ランナーは三塁に進塁せず、エラーしても負けなかった」と思い、4番バッターが、「同点だから負けたので、その前の回自分が打っていれば2点差で、エラーしても負けなかった」と反省するようであれば、共有化はできているといえる。
自分の役割だけでなく、チームの成果に対する関心が高く、それが、単なる義務感や道徳観からのものではなく、目標が達成できればうれしいという気持ちから生まれたものである場合、目標の共有化は、実現できるのである。
 

チームが出来上がるプロセスがある

  目標の共有化には時間がかかる。まして、学習し、人を育てるチームに一晩でなることはできない。一定の時間とプロセスが必要である。この課程を整理したものがタックマンモデルである。チームは、立ち上げ期、混乱期、正常化期というステージを経て、本格的な活動期に至る。そして、活動を整理して次につなげる終息期をもってプロセスは終了するというのがそのモデルである。

立ち上げ期は同床異夢が普通である。呼び集められたメンバーは、与えられた目標を達成するための方法や手順について異なる意見を持っている。役割分担もはっきりしていない。混乱期は、チーム内でのお互いの位置づけについてもやもやした空気が漂い、目標達成のためのプロセスについて意見の対立が目立ち始める時期。平常化期は、対立が少しずつ収まり、チーム活動も進み始める。誰がどのようなときにリーダーシップをとるかというルールも決まってくる。しかし、議論が蒸し返されたりして、またもとの混乱期に戻る危険性が十分にある。この後に本格的な活動期がきて、終息期がくる。終息期という考え方は、後から付け加えられた。一試合ごとに強くなるためにチーム解散の前にやるべきことがたくさんあることに気がついたためである。(図1 チームの発展段階参照)

図1 チームの発展段階 

チームの発展段階

 一般的には、日本人はチームワークに優れていると思われている。しかし実際はそうではない。チームワークが良いのは、身内同士の助け合い関係のときで、新しいものを生み出す場合のチームワークの発揮は、あまり得意とは言えない。理由は、対立を回避しようとする傾向が強いためである。上記のプロセスでいえば、混乱期を経ずして正常化期に入ろうとするので、後に意見の食い違いが明らかになって手戻りが発生したり、表面的な議論の結果、平凡な結論に落ち着いたりして、せっかくのチームによる活動も、たいした成果を生み出せないケースがしばしばである。

また、現代の競争に不可欠な、一試合ごとに強くなるために必要な教訓の整理も得意ではない。反省はするが、分析が成功・失敗の二分法に偏りがちであるためである。反省は本来、「次回もっと強くなるために必要な順」に整理されるべきで、勝った場合も、「こちらが強かったから勝てたのか、それとも、相手が弱かったから勝てたのか」を分析する必要がある。相手も研究してくるので、今回勝った理由が維持できても、次も勝てるとは限らない。負けた理由を改善しても、相手はもっと強くなるかもしれないのだ。

チームが出来上がるためには一定のプロセスが必要である。プロセスを踏まずにチームを作ろうとしてもうまくいかない。混乱期や終息期の活動が不十分では本格的なチームはできないと覚悟しなければならない。
 

チームを作るには、自律型プロ人材が必要

  本格的なチームを作るには、専門知識をもった人材が必要である。それだけでなく、自分の意見を自分の言葉ではっきり述べ、違う分野の人の言うことを聴くことができる専門家でなければならない。意見を述べるだけでなく、いちいち指示をうけなくても自分で行動ができるようでなければ、チームに貢献できない。いわゆる自律型プロ人材同士でないと、互いに触発しあい新しいものを生み出す関係にならないからだ。

自律型プロ人材とは、組織内にあって、専門性を自分でマネジメントする人のことで、自分の役割とチーム全体の役割、自分の責任とチームの責任など、自分とチームのそれぞれの関係を理解し行動できる人のことである。筆者は、この自律型プロ人材を一人の専門家であると同時に経営者としての能力をも発揮するという意味で、「一人親方」と呼んでいる。 一人親方にも色々なレベルがある。チームのメンバーになるには最低、自分をマネージできるレベルになければならない。その上は、自分だけでなく他人もマネージできるレベルである。さらにその上になると、ビジネスや特定の専門分野もマネージできる水準になる。(図2、マネジメントする対象からみた一人親方度参照)どのレベルの一人親方をどのくらい集めるかは、チームに与えられた目標による。教育訓練の意味で経験の少ない人を組み込むのも、必要なことである。

 図2 マネジメントする対象からみた一人親方度

マネジメントする対象からみた一人親方度

 

二兎を追うのが正しい

  現代は、世界中に競争相手のいる時代である。成功するためには、企業は、ときに利益が相反することがある、グローバルな価値観とローカルな価値観の両方を同時に追求しなければならない。個人も同様に、成功するためには、個人のキャリア目標と組織の目標、会社生活と家庭生活などを同時に追及することが求められる。時に相反することがある目標を同時に追求できる企業と個人だけが成功できる時代なのだ。だが、相反する目標の同時追求は難しい問題で、一人では解決することはできない。当然、チームによる解決が必要になる。勝つためには、チームビルディングが不可欠なのである。
以上

※編集の関係で、誌面掲載時とは表題や見出しなどが若干異なっております。

 
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