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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.122  HRM戦略再論(5)How to change 時代の戦略目標のつくり方B強欲資本主義対策

ステークホルダー中心主義か、株主第一主義か

  HRMのつくり方には二つの考え方がある。正義の味方派とダークサイド派である。21C型HRMを考えるにあたり、まず検討したのは、「HRMは何に対して貢献するものなのか、」(コラム6)だが、前者は、HRMを会社と個人の双方の利益に貢献する有用な方法と広くとらえる。従業員により良い労働条件を提示することにより、より満足して働いてもらう。その結果、会社の業績もよくなり、株主も喜ぶ。結果的に社会も雇用の確保という恩恵を受けることができる。古くは家父長的温情主義、新しくはネオ人間関係論学派に繋がり、 最近では、ステークホルダーの利害のバランスを考える経営論に関係が深い。
  後者は、HRMの対象を広くとると、努力が分散し効率が低下する。HRMの役割は、企業の業績の向上に貢献することと焦点を絞るべき、と考える。業績が高ければ、株主にも従業員にも報いることができる。社会的貢献は、貢献度が高い企業は成長,低い企業は衰退するという形で市場が判断してくれる。アンチ温情主義、アンチ人間関係論で、経営論的には株主第一主義に近い。

強欲資本主義が所得格差の原因?

  欧米を中心に所得格差の問題が取り上げられている。企業の所有者である株主の利益を第一に考える経営者がよい経営者ということで、経営者の仕事は利益を上げることだという考え方が強くなり、その結果、事業部門を売り買いして会社の業績を高めたり、自社株買いで株価の引き上げを狙ったりする一方で、従業員向けの経費や環境問題の対策費を抑制するなどコストの削減に努力する経営者、経営幹部が賞賛されるようになった。そして、それらの人々に多額の報酬を支払う傾向が生まれた。この仕組みを強欲資本主義と呼び、大きな所得格差を生んだ原因とする声が高い。
  本当にそうだろうか。確かに、利益を追求するのは正しいことだとする考えが強欲資本主義とつながる。しかしそのベースには、競争は良いことだとする文化がある。競争の結果、良いものとそうでないものが区別され,格差がうまれるので、公正な競争であったかどうかは問われるが、格差イコール悪いこととは思われない。文化は物事の好き嫌いに大きな影響力を持つ。アメリカでダークサイド派が有力なのはここに理由がある。経営者に対する高額な報酬だけが原因ではない。一方、日本の場合は、競争は必ずしも良いものとは思われていない。競争よりは協力が優先され、そのため競争制限的な価値観が有力だ。正義の味方派が主流である。経営幹部の報酬もそれほど大きくはなく、所得格差も小さいが、アップルもグーグルも生まず停滞の20年である。

具体的な対抗策

  ステークホルダー中心主義の場合は、株主だけでなく従業員や顧客の利益も勘案するので、強欲資本主義の抑制効果はある程度あると考えられるが、文化にそのベースがある以上 株主第一主義をステークホルダー中心主義に切り替えるのは簡単ではない(その反対も同様)。それゆえ「持続可能な経営とは」といった、別な視点から利益配分について考察する必要がある。経営幹部の処遇制度も、賞与やストックオプションだけで報いるのではなく、長期的な視点に立って経営することを奨励する意味でLong Term Incentive Plan (LTIP) の活用(コラム18参照)や、損失を出した場合に、過去に支払った成功報酬の返還を求めることができるClawback 条項(コラム コーヒーブレーク37参照)の導入、個人ではなくチームに対し支給する賞与制度など、合わせ技による抑制が必要と考える。  日本の場合は、各種の規制を緩和する努力をしなければならない。持続的成長には、いろいろな分野でイノベーションが起こらなければならないからだ。

※続きをお楽しみに。

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