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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.21  処遇(8)21Cは、選び交渉する世界

労働契約が成立する条件

 組織内一人親方にとって大切なのは給与ではなく、業績を反映するインセンティブと、腕を鍛えてくれる仕事、キャリアを高めるのに役立つ業務経験である。この条件が満たされなくなったとき転職を考える。
会社は、自分のビジネスモデルを実行するのに必要な人材を確保したい。ビジネスモデルの変更、すなわち顧客、あるいは顧客に提供する価値の変更を迫られた場合や、競争に勝つための戦略の変更を迫られた場合、内部リソースを変化の方向にすばやく組み替えることが求められる。不要になった事業や人材を外部に放出、あるいは他に転用し、必要な人材を改めて集めなければならない。両者のニーズが一致した場合、働く・雇うという労働契約が成立する。

21Cは労働の流動性が高いグローバリゼーション3.0の世界である。(コラムvol.3参照)働く人が、働く場所を選んで移動する。一方会社も、撃て・狙え型戦略(これについてはコラム『キャリア形成と戦略(3)』参照 拙著『組織内一人親方』の「はじめに」にも説明がある)の採用により、発見された戦略に従って迅速にリソースの組み換えをおこなう。どちらも「選ぶ」のである。選ぶに際しては、この条件でどうでしょうかという「交渉」が伴う。
 

取引のコスト

 「交渉」にあたっては、双方が相手の情報を集める必要がある。「これから働こうとする会社はどんなところなのか」、「仕事は自分の能力を十分発揮できるものなのか」、「面接に来た人はこちらが期待する能力を十分持っているのだろうか」「ほかにもっとよい候補者がいるのではないか」等など。だが、情報収集にはコスト、時間とエネルギーと費用がかかる。取引のコストである。これ以外にも、働く方からみれば、新しい環境に順応したり、新しい人脈を築いたりするコストがかかる。雇う方は、会社の組織や規則の説明が必要になる。これもコストである。

アメリカの場合、あるポストを埋めようとすると、普通、そのポストの給与の17ヶ月分のコストがかかるといわれる。交渉はものいりなのである。だから、ひとたび交渉が成立し契約が出来た場合は、出来るだけ両者の合意の期間を、長くすることが両者にとって効率的である。

 

惹きつけ、引き止める Attract and Retain

 21Cに移る直前の1995年ごろから、アメリカの人事処遇制度が、大きく変化した理由は、この取引コストが大きくなったからである。ビジネスの成長により、ネット企業は通常のビジネスが出来る人材を必要とするようになった。ネットで売っても、商品は届けなければならない。そのためには、仕入れなければならず、在庫管理も配送も必要だからである。一方従来型のビジネスがネットビジネスに乗り出す場合、ネットの分かる人材がどうしても必要である。そういう訳で、人の引抜が盛んになり、取引コストがかさんだのだ。良い人を引き抜くためには、あるいは良い人を引き抜かれないようにするためには処遇条件を良くしなければならない。

だが、給与はあまり取引の条件にはならない。「面白い仕事」や「仕事に全力投球できる環境」などのほうがプロ人材には大切だからである。よって、さまざまな努力がおこなわれた。「車のガソリンを入れてきて」だの、「子供の誕生パーティーに必要な紙のお皿を買ってきて」だとか、私用に使ってよいコンシェルジュ・サービスなどは、その一例である。「優秀な人を引き抜かれ、その穴を埋める人を雇う取引コストを払うぐらいなら、コンシェルジュ・サービスなど安いもの」なのである。
 

21Cはチームの時代

 取引コストに対する関心は、チームについての関心を必然的に高める。自分が思う存分能力を発揮しようと思えば、仕事をする環境としてのチームの存在が重要になる。プロ野球の選手が、優勝を狙えるチームで活躍したいと考えたり、研究者が、十分な研究サポートスタッフがいるかどうかが気になったりするのは、自分の力を発揮したいからである。

このため、人を引き抜く場合、希望するチームをつくる権限を与えるとか、君のチームのメンバーを連れてきても良いという条件を出すことになる。新しい分野に進出するために必要な人材を集めようとすれば、一人ひとり採用してメンバーをそろえるよりは、一人採用すれば必要な人がゴソッとついてくるような人を採用するほうが取引コストは安い。

引き抜き防止のためにも、優れたチームは不可欠である。製品設計者の場合、お客のニーズを的確に伝達してくれる営業や、すばやく試作してくれる製造部門の存在がないと、力が出しにくい。自分を支える環境に十分満足している場合は、別なところで新しい人脈を作るとか、新しい環境に溶け込む努力をするとかいった取引コストを払ってまで転職しようとは思わない。

よって、労働条件を自分で交渉する一人親方の時代は、流動性が高いため取引コストに関する関心が高く、その結果、チームに対する関心が高まる時代なのである。
 

 

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「21世紀型人材マネジメント―組織内一人親方に好ましい生態系の創り方―」をテーマに、これからも関島康雄のコラムを掲載していきますのでご期待ください。また、このコラムに関するご意見・ご感想もお待ちしております。
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