専門性を高めることにより、組織内一人親方を目指すとしても、急にはなれない。しかし、安心して欲しい。組織内一人親方にも、見習いもあれば初級、中級もある。一足飛びにはなれないが、順序を踏めば立派な組織内一人親方に成長できる。
一人親方のレベルは、仕事の上で、主として何を管理・運営し、結果をだしているか(この作業をマネージと表現する)により判断される。レベル1は、主としてマネージするのは自分、レベル2は、自分と他人、レベル3は自分と他人とビジネス、レベル4は、自分と他人とビジネスと変化である。キャリア形成の上では、前のレベルから次のレベルの進むかどうかが分岐点になる。(「考え方の変更を迫られる三つのターン」の図を参照)
最初の分岐点はレベル1からレベル2に別れるところだ。レベル2では、自分だけで結果を出すのではなく、他の人と協働して結果を出すことが求められる。考え方の変更をせまる最初の分岐点である。例えば、研究者や営業の人のなかには、部下を持つよりは自分が得意なことに専念したい、と考える人がいる。人より3倍売って歩合で稼ぐスーパーセールスマン、ノーベル賞をめざす研究者がそれである。自分をマネージすることに専念しつつ専門性を高める生き方である。どちらの方向に進むかは、個人の選択である。レベル2の方向に進む人は、他人をマネージする能力を獲得しなければならない。他人には部下だけでなく同僚、上司、家族といった人達も含まれる。日本では、他人をマネージする能力が十分でないまま部下を持つポストについてしまうのが普通だ。課長になる前から課長の能力がある人はまれで、多くの人は、課長になってから人をマネージすることを覚える。ポストが人を育てるので、これは、組織に所属することの利点の一つである。
レベル3では、ビジネスをマネージすることが求められる。ここでは、自分の専門以外のことに触れる機会が増加する。販売、設計、製造といった部門だけでなく、人事、経理、資材、といった間接部門と協力して仕事をしなければならない。専門分野の能力だけでなくいわば、編集能力といった力が必要になる。雑誌の編集長は写真も取らないし小説も書かないが、専門家の力を組み合わせ、例えばエコノミストという個性のある雑誌を作り出す。これと同じような力が、ビジネスをマネージしようとすると、マーケティング理論や戦略論の知識と共に必要になる。ビジネスをマネージするのに必要な知識は持っていても、ビジネスよりは職能分野を極めたいと思う人はレベル3の方向に曲がらず、例えば、専門分野の中でも特定の分野のプロを目指すことになる。人的資源分野で人材開発の専門家を目指す、などがその事例である。
レベル4は、経営者や社会構造の変革を志すリーダーに進む道である。大きな絵を描く能力がもとめられる。誤解しないように付け加えるが、研究者の方向に進んだ人(レベル1を選択)も、専門性の高まりにつれて、他の人にアドバイスしたり(レベル2)、この技術を使えば新しい製品が作れるとビジネスに助言したりするようになる。(レベル3)、更には、この分野の研究を進めなければ世界に遅れるなどと考え、新しい研究分野の開拓に専念したりする(レベル4)。従って、どういう筋道を選択しても、直接、間接的にマネージするものは、自分だけでなく他人、ビジネス、変化などが加わり、高度化する。